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キセイジジツ
第8章 正夢
「長田さんは…マナさんと知り合いなんですか?」
長田が本当に嫌そうな顔をしたので聞かずにはいられなかった。
「あぁ、同級生なんだ」
「健兄ちゃんとマナさんは…付き合いは長かったんでしょうか?」
「いや、それはないね。たぶんここ1ヶ月くらいのはずだよ。ずっとマナが健に付きまとってて、健が折れた感じだったし」
「折れた…」
ーーーたけちゃんはマナさんの事…好きではなかったって事かな?
自分の都合の良いように解釈する。
「だから今日だってマナに振り回されてるだけだと思うし、心配しなくて大丈夫だよ」
「そ…そうですよね…」
「それでも気になるなら健本人に聞いてみないとね。健の本心は俺にも分からないし」
ーーーそうだよね。たけちゃんを信じなくて、誰を信じるの?って話だし…
「長田さん…ありがとうございます」
「いえいえ。少しスッキリ出来たようでよかった」
長田がニッコリと笑う。
ーーー長田さんの笑った顔…何か落ち着く…
「じゃー次はさっき聞けなかった悠里ちゃんの書道を始めたきっかけを教えてもらおうかな!」
ーーーそう言えば、忘れてた。
「あっはい。私、保育園の頃は園内の'書き方教室'に通ってて硬筆を習ってたんです」
「俺も最初は硬筆から始めたよ」
「それで小学校入学と同時に親に言われるがままに毛筆も始めて、その頃はそこまで好きじゃなかったんです。やらされてる感が大きくて…」
「ははっ」
「そんな時に父に書道展に連れて行ってもらって、その時に見た作品に感動して…書道の素晴らしさを感じたんです」
「それは良い出合いをしたね」
長田が書道の先生のような温かい顔を見せる。
「それは学生の部での一般から応募した作品で、聞いた話によると中学生の方の作品だったみたいで。荒々しさと繊細さが上手い具合に表現された'永遠'という文字に私は目が離せませんでした」
「最近はとてもキレイに文字を表現する人が多いからね」
「ですよね!でも残念だったのは、その方の本名が分からなかったんです…」
「本名?」
「はい…その方は恭心という名で…」
「うぇ!?」
長田が急に変な声を出して口を開いた。
「どうかしましたか?」
「いや…その…うん……」
「もしかして…」
「へ?」
「長田さん、恭心さんをご存知なんですか?!」
私は長田の膝辺りに両手をついて、顔を見上げた。