この作品は18歳未満閲覧禁止です
![](/image/skin/separater1.gif)
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
キセイジジツ
第8章 正夢
![](/image/mobi/1px_nocolor.gif)
「えっ…?」
長田に支えてもらいながらソファーに座り直し、その大きな両手を握る。
確かに男性の手なのに…なめらかで細長く、決してゴツゴツしていない。
右手の中指には勲章と呼べるような'筆たこ'。
まだ小さいけれど長田の生きざまがそこに見える気がした。
「私…この手の感覚を覚えてます。正確には'思い出した'ですけど。うんと昔…私が5歳の頃に私たち会ってませんか?」
疑問符をつけて尋ねたのは、まだ完璧に記憶を取り戻した訳ではないし、確信するのにはあと一歩の疑問が残るから。
「私昔からある男の子と結婚の約束をする夢を見てたんですが、ずっとそれを夢だと疑わなかったんです。でも本当は現実にあった事だって周りから聞いて…」
ーーーたけちゃんだといいのに、なんて思うなんて。
健の焦げ茶色の瞳を思い浮かべる。
ーーーあの瞳じゃなかった。
「でも男の子の顔も名前も私には分からなくて、どうやって探すべきか悩んだんです。決定打の見つけ方は分かってるんですが……」
ーーー元兄ちゃんに教えてもらったから。
「ここまでで私の直感は間違えてるんでしょうか。偶然が重なっただけで、長田さんと男の子は他人の空似なんでしょうか?」
長田は私を見つめて黙ったまま、何か考えているようだ。
「さっきの『安心して。キミが嫌な事はしないから』って言葉もあの時『結婚しようね』って約束をした時に私に言ってくれましたよね。あの時の私がどれほどその言葉に助けられたか…」
「…覚えてるの?」
目を見開いて私に尋ねる。
「思い出せたのはごく一部だけです。
でも昔から口には出してなかったんですが……いつか結婚するなら、私が嫌がる事をしない誠実で優しい人と…と心の奥で思ってたんです」
ーーーそう、結婚するなら。
「長田さんはどこからどこまで覚えてますか?」
真っ直ぐに長田を見つめて耳を澄ませる。
一語一句を聞き漏らさないように。
「俺は悠里ちゃんの事……っ…」
長田の口から言葉が零れた時ーー私の携帯が鳴り響く。
一気に緩んだ空気を感じながらソファーの前のテーブルに視線を移して画面を見る。
そこには、健の名前。
「っ……!」
長田も携帯を覗き込み動きを止めるが…すぐに私へ視線を戻す。
何も言わないけれど解る。
今はーー電話に出るべきなのだと。
![](/image/skin/separater1.gif)
![](/image/skin/separater1.gif)