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キセイジジツ
第9章 思惑
「雑炊だよ。意外だった?俺が料理出来るの」
「えっいやっ…はい…」
「ははっ。よく言われるから気にしなくていーよ。温かい内に召し上がれ」
「いただきます…」
手を合わせてから一口、口へ運ぶ。
薄味だけど鶏のダシがよく出ていて優しい味がした。
「美味しいです」
「それはよかった。まだいっぱいある……」
もう一口を口へ運ぶと涙が零れた。
「すごく…美味しい」
「悠里ちゃん…」
目の前の椅子に腰を下ろした長田が腕を伸ばして頭を撫でてくれる。
温かい手のひらが余計に涙を誘う。
「泣き過ぎて干からびるよ。ほら水も飲んで。
うーん……食べながらでいいから、俺の話聞いてくれる?」
「…はい」
「恥ずかしいから、昔話風に話すね」
ーーーえっ昔話風?
一瞬長田を見やるけど本人はいたって真面目な顔をしているので黙ってうなずいた。
それを見た長田が口を開く。
「むかーしむかし、隣町に恭介という小学5年生の男の子がいました。
季節は夏で夏休みに入った頃、ここ高雄町の親戚のウチに預けられる事になった恭介は近くの本堂で行われていた夏祭りで一人の女の子と出会います」
ーーーそれが…
「その女の子は5歳くらいで恭介よりもうんと幼く、そしてすごく可愛い子でした。
ちょうど親戚とはぐれて迷子になりかけていた恭介は、一人で階段に座り寂しそうな顔をしている女の子を何となくほっておけずに声をかけたのです。
『キミ、まいご?』と聞くとその子は顔を上げて恭介を見て急に泣き出したのです。
焦りながら恭介が『どうしてなくの?』と聞くとその子は泣くのを止めて『パパとママにおこられたの』と言いました。
でもどれだけ理由を聞いてもその子は話そうとしませんでした。
理由を話さないけど『わたしすてられるんだよ…』と5歳とは思えない呟きを聞きながら頭を撫でて慰めてあげると、その子は本当に嬉しそうに『ありがとう!おにーちゃんやさしいね!』と笑いました。
その時の笑顔は恭介にとってあまりにも衝撃的で思わず『もしキミがすてられてもだいじょうぶだよ』と口走ります。
どうして自分がそんな事を言ったのか分からないままに口は勝手に動き、言葉を続けました。
『そのときはぼくが`かぞく`になってあげる。もしまたあえたら…おおきくなったらけっこんしようね』と言ったのです」