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キセイジジツ
第9章 思惑

「その子は『うん!けっこんする!』と即答でした。両親が離婚に向けて話を進めているのを知っていた恭介は自分も寂しかったのかもしれません。
その子に必要とされてる気がして、それが無性に嬉しかったのです。
そして約束と言えばお決まりの行動`ゆびきりげんまん`を済ませると、ここでやっとお互いの自己紹介をします。…いや、確かしたはずです」

ーーーそうだよね、私もその辺はあやふやだ…

「自己紹介を済ませるとその子のお兄さんらしき人がお迎えに来ました。
恭介はその子に手を振って後ろ姿を見送ります。
そんな自分の行動に後悔したのは一年後です。
高雄町の夏祭りに来ればあの子に会えると思っていた恭介は自分の浅はかな考えに打ちのめされました。
そう…どれだけ探してもあの子を見つけられなかったのです。

この時はまだ名前も覚えていたと思います。
しかし顔はある程度の雰囲気しか思い出せず、あの子に会えさえすればすぐに分かる!とたかをくくっていただけに、会えなかったという事実は恭介を落ち込ませました。
でもそれで終わる恭介ではありません。
両親の離婚が正式に決定し、どちらについていくのかは迷いませんでした。
父親の田舎であるここ高雄町へ引っ越す事を決めたのです。
そうすれば夏だけに限らずにあの子を探せると思ったからですね。

しかしそんな恭介の想いを打ち砕くかのように、どれだけ探してもあの子には会えませんでした。
『どうして見つからないんだろう?もしかしてこの町の子ではなかった?』と気づいた時にはもう遅く、淡い恋心に気づいた頃には探すのを諦めてしまいました。
これ以上好きになる前にあの子の事は忘れようと。
年を重ねて大人になれば他の誰かを好きになって自然とあの子の事は忘れるだろうと。

それは恭介にとって大誤算でした。
忘れようとすればするほどにあの子との約束が脳裏に浮かぶのです。
『もしかしたら…あの子も約束を覚えてて俺を探してるかも』とどこかで信じる気持ちだけが日に日に大きくなっていったのです。

そんなある日、友達のウチで一人の女の子と会いました。
その子は愛想笑いをしていて何となくツラそうに見え、声をかけると急に座り込んだので、恭介は焦りました。
焦りながらも、泣きはしないけれど何とも言えない表情をするその子に、勝手にあの子の姿を重ねて懐かしさを感じたのです」
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