この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
キセイジジツ
第9章 思惑
「驚いて…あの子が悠里ちゃんだって分かって嬉しかった。やっと会えたんだって。
でもそれと同時に戸惑ったよ…」
顔をくしゃっと崩して笑うが、私には今にも泣きそうな顔に見えた。
「ど…どうしてですか?」
そう尋ねると長田は目を伏せた。
「健は何も言わないけど、健の悠里ちゃんに対する気持ちには何となく気づいたし…
その健を見つめる悠里ちゃんの気持ちも…」
ーーーそっか…長田さん私の気持ちにも気づいてたから…
「すぐにでも悠里ちゃんに『俺の事覚えてる?』って『俺があの時のおにーちゃんなんだよ』って言いたかったけど…どこかで迷ってた」
「迷う?」
「うん。悠真くんから『悠里は夢の事を現実の事だと聞いてるはずですが、名前までは聞いてないはずです』って聞いて迷ったんだ。
もしかしたら…
悠里ちゃんから俺の事思い出してくれるんじゃないかって期待する反面、
思い出したとしても俺との出来事なんて今となっては過去の事で『それが何ですか?』とか言われるんじゃないかとかネガティブな考えしか出来なくて…
すげー怖かったんだ。ははは……」
ーーーそんな事ないのに…
「でもそれでも悠里ちゃんと話してみたくて、悠真くんに協力してもらったんだ。
教室の手伝いでもいいから、どうにかして悠里ちゃんと会えないかって。
だから悠里ちゃんが喜んで手伝ってくれる事になって俺も嬉しかった。
今日こうやって会えるのを、手伝いという形だとしても楽しみだったんだ」
「長田さん…」
「今日会ってみて、やっぱり俺から言うのは止そうと思ったんだけど…
悠里ちゃんを見てたら、それはもう無理っぽい。
健の事にしても…他の誰かの事で泣く悠里ちゃんを見るのがツラくてね。
俺なら泣かせないのにって思ったんだ」
長田が真っ直ぐ私を見つめる。
その瞳は静かにそこに佇んでいて主の心を写し出すようだ。
「あの…」
「悠里ちゃん待って。
もう少し話しておきたいから聞いて。
……つまり、今すぐ答えを出さないで欲しいんだ。
今だと健の方が優勢だからね…残念な事に。
だから、ちゃんと健との事を解決させてから、改めて俺の事も考えて欲しい。
俺にとっても健は大事な奴だし…二人の仲を邪魔しようとは思ってないよ。
10年以上待ったし、俺まだまだ待てるからさ。
俺のお願い…聞いてくれる?」