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キセイジジツ
第9章 思惑

一晩明けて雨も止み天気予報でも警報が解除されたので祖母宅へ帰れる事になった。

脱衣所にて乾かしていた自分の服に着替え、借りた服は持ち帰る事にした。

長田は「気にしなくていいよ」と言ってくれたけれど、実はこのワンピースは亡くなったお母さんの形見なんだと聞いてなおさら、ぞんざいな扱いは出来ないと思ったのだ。

「…長田さんが気にしなくても私は気になるので」
「いや、俺も洗濯出来るからって意味で言ったんだけどね…」

長田の声が小さくなっていくのに気づいてハッとして視線を向けると、困った横顔があった。

「あっ…すみません。嫌な言い方しましたね。
何と言うか…どんな意味にしても借りたものはちゃんとしたいので…」
「いいや…ありがとう。母さんも嬉しいと思うよ」

運転中だからか故意にそうしているのか、前を見たまま穏やかに笑った。

ーーー長田さんって大人だなぁ。
それに比べて私は…たけちゃんの事でイライラしてそれを長田さんに八つ当たりして…子供だ。

申し訳なさを感じながら見つめていると、信号待ちで車を停止させた長田がこちらへ顔を向けた。

「思ったんだけど…洗濯して返してくれるって事はさ、教室の手伝いって口実とは別に悠里ちゃんと会えるって事だよね!」
「あっ…はい」

勢いに負けて肯定の返事をすると…

「ふふっ…デートかぁ…」とニヤついている。

ーーーあれ、意外と可愛い…?

「そんな事より、信号青になってます!」
「そんな事より?!悠里ちゃんひでぇー…」

私の雑な返しに渋々と発車させながらも、声のトーンや表情は明るかった。


そしてあっという間に祖母宅に到着し、お礼を伝えて車を降りる。

長田もわざわざ車から降りて玄関前までついてきてくれた。

車中での事もきっと、私の事を気遣ってくれてるんだろうと思った。

健の事を考え過ぎないようにと。

「また連絡するね…」

返事をするよりも先に長田の腕の中へ包まれる。

「えっ?!あのぉ…」

驚きながらも抵抗しないでいると頭上からため息が聞こえた。

「ほら、抵抗しないと。悠里ちゃんは隙があり過ぎるよ。俺は心配だよ…」
「…長田さんが一番心配なんですけど…」
「えっ!」

ーーー何だか私、長田さんにはSっ気が出るかも。

自分の新たな性癖を確認しつつ、こんな気分にさせてくれる長田に感謝していた。

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