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キセイジジツ
第10章 迷心

ーーー本当のたけちゃん…

私はゴクリと喉を鳴らして口内に溜まった唾液を呑み込んだ。

健は口を開いてはつぐんで、開いてはつぐんでの動作を繰り返して、なかなか言葉を発せずにいる。

せっかく自分から話そうと決意してくれたのだから、私が言葉を発して邪魔をする訳にはいかない。

それほどに言いにくい事が健の本当の姿なのだと思うと頭が痛かったが、それを悟られないようにただ黙って健を見つめていた。


そんな状態が数分経った頃、拳を握り締める様子が視線の端に入ってきた。

ーーーそろそろかな。

顔を固く強ばらせて私を真っ直ぐに見つめてくる眼差しが弱っていた鼓動を揺るがす。

ーーーそんな目で私を見ないで…。


「悠里…俺さ、あいつ…マナは元カノって言ったけど付き合ってはなかったんだ。
いわゆる、セフレってやつで体だけの関係だった。
だから恋愛感情は一切なかったんだ、俺は。
でも…マナは俺の事が好きで…俺はそれを知っててマナと関係を持った」

「そう…なんだ」

「マナにずっと言い寄られてたし最初は軽い気持ちだったけど、割り切る事が出来ずに俺に本気になったマナを疎ましく思って一方的に関係を切ったんだ」

黙ってしまう私から少し視線を逸らして健は言葉を続ける。

「正直に話すと俺は高1の頃から彼女とは名ばかりの欲求だけを発散させる相手がいた。
悠里が想像つかないくらい俺は遊びまくってたんだ。不特定多数の女達とね」

「好きな…人は…いなかったの?」

「もちろんいるよ。昔から今までもずっと一人だけ…でもその子はまだ幼くて手なんて出せなかったから、どうしようもない欲求はその辺の女で発散させるしかなかったんだ…」

「でも、好きな人いるのに…他の人とって…」

眉を下げて情けない顔をした健がそっと私の手を両手で包む。

「ねぇ、気づかない?俺がずっと好きなのは悠里なんだよ」

「あっ…」

ーーーそうだ。たけちゃんは…何度も私を好きって言ってくれた。
その言葉に…嘘は見えなかった。

「悠里が小学生の頃からずっと好きだった。でも、俺達は従兄弟同士だから…好きになっちゃいけないと思ってずっと我慢してた。
悠里に気持ちを伝えても報われるとは思わなくて、それならこの気持ちは忘れてしまおうって思いながらも、やっぱり悠里が好きで…
悠里を想いながら他の女を抱いてたんだ……」
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