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キセイジジツ
第10章 迷心
健と長田のやり取りを見守りながら元はこれからどうするべきか迷っていた。
ここにいるのだから公平な立場で何か言ってやるべきなのだが、自分は健の兄であってどんな事があっても健を見捨てる訳にはいかない。
しかし長田の言い分のが正しいのは確かで、悠里の事を想うと健はもう悠里に会わせるべきではないのだろうとしか思えない。
それが二人にとって辛い選択だとしても。
では、どうする?
いくら勉強面で頭が良くても、こんな時に役に立たなければ意味ないな…と自分の人間性を責めるしかなかった。
それならもう自分は口出しするべきではないなと、そっとため息を吐くと長田が頭を抱えている健に近づいた。
「おい、健。俺を見ろよ」
健はビクッと体を震わせながらも言われた通りに長田を見上げた。
涙や鼻水で顔面はグチャグチャだった。
元は健の泣き顔なんて久しぶりに見たな…と今の状況にそぐわない事を考えていた。
長田の声は思ったよりも落ち着いている。
「お前がやった事は人として、男として、悠里ちゃんの従兄弟として最低だ。でもお前が心底後悔してるならいくらでもやり直せるはずだ。
悠里ちゃんがどう思ってるかは分かんねーけど、許してもらえないかもしんねーけど、きちんと謝れ。
それからどうするか自分でしっかり考えろ」
健は黙って親友の話を聞きながら少し考えるような表情をしていた。
「動くなら早ければ早い方がいいぞ。淳はどうか分かんねーけど、俺はお前を見捨てたりしねーから安心しろ。相談だって乗ってやる。
でも俺な、一つだけ譲れないものを見つけたんだ。
お前にいつ言おうか迷ってたけど…悠里ちゃんの事が好きだ」
「え……」
健が信じられないとでも言うように目を見開く。
「そりゃー驚くよな。俺も驚いてるよ。でも俺にとって悠里ちゃんはたった一人の運命の相手としか思えないんだ。大げさかもしんねーけど。
彼女の事をずっと探してた。そしてやっと見つけた。もう失いたくないから俺は遠慮なく動くからな?
ついこの前までお前が優勢だったけど、俺の方が彼女を幸せにする自信がある」
「待てよ…何で悠里なんだよ…」
「それは今は教えてやんねー。もし俺がお前に負けた時に話すよ。これが俺がお前に与える罰だ」
「っ……」
「俺は明日から攻めるからな。じゃーな」
長田は手を振ると部屋を出て行った。