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キセイジジツ
第10章 迷心
居間の扉の前に立つと中から悠真と長田の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
扉に耳をあててすませてみるが話の内容までは聞こえなかった。
少し残念に思いながら扉を開くと、その音に気づいた長田がこちらへ顔を向けて、ふっと柔らかく微笑む。
「やっと来た」
その顔が私の鼓動を高まらせるが、平然をよそおって長田の向かい側、悠真の隣に腰を下ろす。
「お待たせしました。わざわざ来てもらってありがとうございます」
「いや、急に来てごめんね。まさか入浴中とは思わなかったよ。それに、わざわざ着替えなくても良かったのに」
部屋着から普段着へと着替えて髪も化粧もきちんとした私を見て長田が残念そうに笑った。
「あ…あれはさすがに失礼な格好かなーと思いましてっ。ははは…」
「俺的には素の悠里ちゃんが見れて嬉しかったけど」
「えっ」
「悠里ちゃんの事、もっと知りたいな」
「ええっ」
頬杖をついて私に視線を向ける長田はいつもと雰囲気が違う気がした。
ーーー悠真もいるのに私ばっか見つめないでー!
恥ずかしくて目を逸らして隣の悠真に助けを求めると、悠真は一瞬私を見てすぐに長田へと視線を向ける。
「恭介さん。悠里も一応、病み上がりというか心身共に弱ってるので、あまり刺激しないで下さい」
「あ、そうだね。ごめん気をつけるよ」
「元気になったらいくらでも相手してやって下さい」
長田に向かってニコッと笑う悠真。
「ちょっと悠真!」と間に入る私。
二人は無視して聞いちゃいない。
ーーー助けを求めたのに何言ってんのよ。
そう思いながらテーブルに目を向けると、今さらながら手土産が置いてある事に気づく。
そんな私の視線に気づいた長田が「あぁ」と思い出したように手土産の包みを開け始めた。
「いっしょに食べようと思って買ってきたんだ」
それは博多銘菓〈博多通りもん〉
「「通りもん!!」」
「被ったね。ははははっ」
悠真と私はほぼ同時に声を出して長田に笑われた。
「お茶煎れてくる」
悠真が恥ずかしさから逃げるように台所へと立つと、長田がコソッと声を小さくした。
「悠里ちゃんの為だよ。好きなんでしょ」
「はは…」
またしても私が無類の通りもん好きという事がバレている。
情報提供者は悠真だろう。
長田といるとどんどん太っていきそうだな…と今から自分の身が心配になった。