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キセイジジツ
第11章 外出

蝉の鳴き声がうるさかった。

一日一本はアイスを食べないと済まないほど、夏の強い日差しは容赦なく悠里の体を溶かす。

いつの間にか8月も半ばになろうとしていた。


ーーーこんな毎日アイスばっか食べてると…元兄ちゃんみたいだなあ…

無類のアイス好きの従兄弟の顔を思い出しながら、食べ終わった棒をゴミ箱に捨て、携帯を扱う。

ーーーそろそろ来るかな。


洗面所へ向かい歯磨きをする。

不思議と気持ちは落ち着いていた。


ふと小窓から庭に目を向けると蝉が二匹並んで木にしがみついていた。

番(つがい)だろうか。

キレイに並んでるのが何とも言えない。

たった一週間という短い命にも関わらず、相手を見つけた蝉に私はうらやましさを感じた。


「ゆーりー」

玄関の方から悠真が声を張る。

急いで口をすすいだ。

「もう来てるよー急いでー」
「はーい。すぐ行くー」

部屋から鞄だけ持って玄関へ向かった。

外に出ると見た事のない車が一台、エンジン音を響かせて停まっている。

悠真と近づいていくと男性が運転席から降りてサングラスを外しニカッと笑う。

「お待たせ~!さっ乗って」

私達を迎えに来てくれたのは築地。

忙しい長田の代わりに車を出してくれたのだ。

「お迎えありがとうございます」
「築地さんも忙しかったんじゃ?」

車に乗り込みながら悠真と私がほぼ同時に声を出すと築地はテンション高めに笑う。

「ぜーんぜんっ。喫茶店ってそんな忙しくないし、役に立てて嬉しいよ!それに…」

築地は少し声のトーンを下げる。

「俺も…あいつを許すって決めたし…恭介の代わりに見届けたいからさ。俺の店でって決めてくれてホント嬉しいよ」

切なげな表情をしているが声は穏やかで、築地も前に進もうとしてるんだなと思った。

車がゆっくり動き出す。


昨日、健へ連絡をし築地の店で話がしたいと伝えると、健は即了承してくれた。

さすがに健に迎えに来てもらうのはどうかと思い、悠真経由で築地に連絡した。

悠真がいてくれれば安心だと思ってた私は
「大丈夫だろうけど、念の為」
と言う悠真に従って築地に同席を頼む事にしたのだ。

もう健が間違わないように。


待ち合わせの時間が迫る。

携帯の時刻から目が離せない。

ーーーたけちゃん。
私達も前に進まないといけないね。
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