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キセイジジツ
第11章 外出
築地の店の前に到着するとすでに白のSUV車が停まってあり、健が先に到着しているの事を報せていた。
同様にその車に気づいた築地がボソッと声を出す。
「あ。先に着いとる」
店主である築地が店を空けた事によって入口のドアは施錠されており、中に入る事が出来ずに車内で待っていたようだ。
車から降りた築地が健の車の窓をコンコンとノックし『開ける』と口を動かしながら入口の方を指差す。
すぐに車から出た健は悠真や私の方を見ようとはせず、開いたドアをくぐって店内へと足を進めた。
それに続いて悠真と私も店内へ。
カウンター席に腰を下ろした健がチラッと視線をこちらに向ける。
静かに揺れる焦げ茶色の瞳は私の知ってる瞳。
「悠里」
低さの中にわずかに感じる高い声。
「誘ってくれてありがと」
弱々しく笑う顔だけが、健ではなかった。
「ううん。たけちゃんこそ来てくれてありがとう」
私の言葉に健は笑いを消して目を伏せた。
ーーーどうしてそんな…
健に近寄ろうとする私を後ろから悠真が止める。
思わず振り返ると悠真は首を横に振っていた。
ーーーそっか。そうだよね。簡単に触っちゃダメなんだよね。
伸ばしかけた腕を引っ込めて悠真と私もカウンター席へ腰を下ろす。
「みんな、何飲む~?」
エプロンを引っかけた姿の築地が明るい声を出した。
築地が明るく振る舞うだけでこの場の空気が一気に和やかなものとなった。
「俺はアイスコーヒー」と健。
「オレンジジュースがいいです」と悠真。
「ローズティーがあればそれで」と私。
「了解。あ、悠里ちゃん。手伝ってもらっていい?」
「あっはい」
築地に続いて私も厨房のある奥へと向かった。
「健兄ちゃん」
悠里がいなくなったのを確認して悠真は健へ声をかけた。
「少し痩せたんじゃない。ちゃんと食べてる?」
「あぁ、食べてるよ」
そう言うがそばにいる人間なら変化に気づくだろう。
「無理してでも食べなよ」
「お前は俺の母親かよ。大丈夫だから心配すんな」
「うん。ごめん」
「何で謝るんだよ」
「あっ…いや、何となく…」
「ははっ。悠真が変だぞー」
あの日、悠里を一人で健のとこへ向かわせた事を悠真はまだ引きずっていた。
自分がもう少し考えていれば、悠里も健も傷つかずに済んだのかもしれないのにと。