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キセイジジツ
第11章 外出
静まった空間に誰かの喉が鳴る音が響く。
悠里を見つめる健の瞳も
健を見つめる悠里の瞳も濡れてはいない。
時間が止まったかのように誰も動かなかった。
いや、動けなかったが正しいだろう。
それほどに悠里の吐き出した言葉達は重みをまとって空中へと流れていった。
「…悠里の気持ちは分かった」
やがて健が口を開き沈黙を破る。
「確かに悠里の言う通りだな。
俺が警察に行ったところで被害者がいなければ罪を立証する事は出来ない。それこそ証拠がないしね。
それに悠里から離れる事が罪滅ぼしだと思ってたのもまた、浅はかな考えだった」
「ほらねー」と築地が相づちを打つ。
「俺が悠里に対して甘いって言うのも間違ってない。俺にとって悠里は可愛い従姉妹であって、初恋の相手でもあるから、俺としては好きな相手に甘いのは仕方ない事なんだよ」
「うんうん。俺も同じー」築地がうなずく。
「うるせーよ、淳。
でもそれが悠里の為にならないなら俺じゃダメなんだよな。何よりも悠里が俺の事を認められないなら、俺達に未来はないって事で…」
「お前には俺がいるよ」築地が健の肩をポンポンと叩く。
「はいはい、ありがと。
今さら何を言っても悠里の気持ちは変わらないんだよな?」
「うん…」悠里がうなずく。
「そっか…。それでも言っておくよ。
俺は…悠里が小さい時から好きだったよ。いつもそばにはいられなかったけど、たまに悠里の笑う顔を見れるだけで嬉しかった。
たまに従兄弟って立場じゃなかったら想いを伝えられるのにって思ったけど、他人だったら『健兄ちゃん』って悠里から呼ばれる事もなかったし、慕ってもらえなかったかもと考えると、従兄弟で良かったと思った。
それでも思春期になると男は脳内がくだらない事やエロい事でいっぱいになって、自分では止められなくなる。そんな時、そばにいない悠里より、近くにいる女に手を出すのは自然な事でさ。
言い訳じゃないけど、それでも悠里が好きだった。
だから悠里がこっち来て気持ちが通じた時はすごく嬉しかった。周りに反対されたとしても悠里といっしょになりたかった。従兄弟同士でも結婚出来るって分かってたし。
でもそれはもう無理なんだよな…
何となく悠里の気持ち分かってたけど…やっぱ辛いわ。それ以上に悠里の方が辛いよな…
ちゃんと教えてくれてありがとう」