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キセイジジツ
第12章 作戦
新幹線のホームに一組の男女がいる。
お盆時期と重なってボストンバックやキャリーケースを手に足早に歩くほとんどの人達は笑顔で新幹線の到着を待っている。
きっと帰省や旅行をするのだろう。
そんな中スーツを着たサラリーマン達は、楽しそうな人達を尻目に憂鬱そうな顔を浮かべて足取りも重そうにベンチへと腰を下ろしていた。
エスカレーターの前に出来た行列に並びながら、サラリーマンの丸まった背中を見つめていると男が腕を引いた。
「ほら、行くよ」
目の前にいる男に続き、女はエスカレーターにキャリーケースを乗せる。
「予想以上に混んでるな。やっぱり飛行機の方が良かったんじゃないか?」
男は女に振り返るとため息混じりに言葉を吐く。
「飛行機は手続きが面倒でしょ。それに新幹線の方が費用も浮くから良かったじゃない」
「そりゃそうなんだけどね。俺は飛行機の方が慣れてるからなあ。ケツが痛いし…」
「何、そのリッチですよアピール。その浮いたお金をどこかに寄付しようとか言う気持ちはないわけ?しかもケツが痛いなんて…だらしない」
エスカレーターを降りて女もため息を吐く。
「そう言うなって。お前だって仕事明けで疲れてるだろ?家までのタクシー代は俺が出すから」
「それこそもったいないわよ。私はバスでいいし」
「普段は節約してんだからたまには良いだろ、タクシーくらい使っても。ほらタクシー乗り場あっちだよ」
男は返事を待たずに女の腕を掴んで足を進める。
最短のルートを予測していたのか、男は止まる事なく人の間をすり抜けていく。
人混みでは必ずと言っていいほど、すれ違いざまに人とぶつかってしまう女は、男のそういうところに尊敬の眼差しを向ける。
「ホント、人混み歩くの上手いよね。ある意味特技じゃない?」
「こんなの普通だろ。お前が下手過ぎるの!」
「あ。やっぱり私、下手なんだ」
「気づいてなかったのか?ったく器用なはずなのに何で人混みだけが苦手なんだよ。心配で一人で歩かせられねえ俺の身にもなれよな」
「失礼ね。一人で歩くのなんて朝飯前よ」
そう言って男の腕を振りほどき歩き出すが、三歩目で人とぶつかった。
「ほらな」
「今のはたまたまよ」
「ふーん?まあいいけど。あのタクシーに乗るぞ」
男のニヤリ顔を睨み返しながら、待機していたタクシーに乗り込んだ。