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キセイジジツ
第12章 作戦
長田は内心、焦っていた。
悠里と健の話し合いは無事に終わったと築地から聞いて、これからじっくりと悠里との関係を築いていこうと決心した矢先、書道の生徒である大和が悠里の事を気に入ってしまったのだ。
ーーーまさかこんなとこに伏兵がいたとは。
苦笑いをしながらお茶をすすっていると向かいに座っている悠里が首をかしげた。
「長田さん、どうしたんですか?」
「え?」
「何かあったんですか?」
目の前で眉を下げて心配そうに尋ねてくれる悠里を見て、今自分だけを見つめてくれてる事が何とも嬉しかった。
「大丈夫だよ。ちょっと考え事をね」
「何ともないなら良いんですけど…」
俺の言葉に何となく納得しながら、悠里はお茶請けの水ようかんをひとくち、口へ運んだ。
「味はどう?」
「すごく美味しいです!これどこのですか?」
洋菓子ばかりじゃと思って和菓子を用意したのは正解だったようだ。
思った以上の好感触に俺の顔も綻ぶ。
「それ、俺が作ったんだ」
「えっ!長田さんの手作り?!」
「うん。昔から水ようかんだけは自分で作るんだよね」
「すごいです!和菓子作れるなんて!」
「そう?ありがと…」
こんな風に誉められるのに慣れてない俺は照れ隠しのつもりで言葉を続ける。
「食べたくなったら、いつでも遊びにおいでよ」
「はい!ぜひ~」
悠里はニコニコしながら水ようかんを食べ進めていった。
今日は悠里には午前の教室を手伝ってもらい、終わってから二人で昼食を食べたあと、食後のデザートとして水ようかんを出していた。
大和は大抵、午後の時間にしか来ないから、悠里と会わせない為に午前しかない日を狙って手伝いをお願いしたのだ。
大人げないかもしれないが致し方ない。
悠里に変な虫がつかないように見張るのも大人の役目なのだ。
ーーー実際は俺が悠里ちゃんと大和を近づけたくないからだけど。
水ようかんを完食した悠里がお茶を啜りながら俺をジッと見つめている。
「長田さん。大和くんの事なんですけど…」
ーーー何で大和の事なんか…
「私ちょっと苦手なので、大和くんがいる時間のお手伝いは断っても…」
「いいよ!全然大丈夫!悠里ちゃんが無理する事ないからさ!」
「は…はい」
興奮気味にまくし立てると悠里はたじろいだが、俺は追い風が吹いた事に内心でガッツポーズをとっていた。