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キセイジジツ
第13章 確信
あっさりと了承を貰えるとは思ってなかったのか、リーダーは慌てた様子だった。
「本当に良いの?!…悠真くん…弟を売るようなマネして!!」
ーーー売るようなマネって……どこかのヤクザ映画みたい。
「え。じゃ…やめときます?」
デジカメを受け取ろうとしていた手を引っ込めると、その手をギュッと握られた。
「いやっ!いやいや、待って!お願いするわ!」
「モジモジさん…じゃなくて。あの、確か、阿部さんですよね?」
「え…、どうして私の名前…?」
モジモジさん改め、阿部さんが目を見開いて私を見つめる。
ーーーだって私、阿部さんの事…。
「阿部さん毎年、ウチまでバレンタインのチョコ持ってきてくれてますよね?阿部さんの事、見覚えあるなあと思ってて、今思い出しました」
「どうしてそんな事まで…」
「悠真ってああ見えて甘いものにはうるさくて、私の作るものにはケチつけるんですけど、毎年阿部さんから貰うチョコだけはベタ誉めで美味しそうに食べてるんですよ」
「そ…そうだったんだ…。それ、嬉しい…」
頬を赤く染める阿部さんはとても可愛かった。
「悠真はまだ恋愛に興味ないみたいで…すみません。でも阿部さんからの好意は嫌ではないと思いますよ。嫌だったらチョコも食べてないはずだし。
さすがに…キューピッド役は出来ないですけど、写真くらいなら任せて下さい!」
デジカメを奪い取って微笑むと、阿部さんは涙を浮かべながら頭を下げた。
「ありがとう!本当にありがとう!!」
頭を上げて再び私を見つめるその顔はもう何も迷ってはなくて、モジモジしていたのが嘘のように阿部さんは穏やかに笑った。
その時、私は決心した。
私も健兄ちゃんにきちんと想いを伝えようと。
ーーー今となっては、それも過ぎた事なんだけど…
あの後、悠真に事情を話すと悠真は意外にもあっさりと写真を撮る事を了承してくれた。
気持ちに応えられない代わりに、悠真なりに阿部さんへ何か返したいと思ったのかもしれない。
ーーー阿部さん、しばらく会ってないなあ。元気かなあ…。
一つ上の阿部とはそれから悠真が知らないところで交流を深めていて、会う度に悠真の情報を流している。
友達が多くない私は恋愛の話が出来る阿部といっしょにいるのが楽しくて、嬉しくて、仕方なかったのだ。