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キセイジジツ
第13章 確信
「何か良い事でも思い出してるの?」
すっかり一人の世界に浸っていた私は長田に指摘されて意識を戻した。
「あ…そんな顔してました?」
「うん、してた」
ふふっと私が思い出し笑いをすると、長田は「んー?」とチラッと一瞬だけ疑いの目を向ける。
「男関係でしょ」
「えっ、何で分かるんですか?」
「あ、やっぱり。それちょっと妬けるなあー…」
「男って言っても、悠真の事ですよ」
私が何とでもないように言うと運転中の長田はハンドルに前のめりになって「はははっ」と笑った。
「あー…ごめんね。無駄に妬いちゃって。まさか悠真くんだとは思わなくてさ」
軽口で"妬いちゃって"と長田は言うけれど私は少しでも妬いてもらえた事が嬉しかった。
「あの、長田さん…」
「ん?」
何となく気になってはいたけど聞けなかった事。
それは長田の女性関係。
築地から『恭介は誰とも付き合おうとしなかった』と聞いて、私が長田さんの初めての彼女になれるのかな?と甘い想像をしていたのだが、長田と体を重ねてからその想像にヒビが入った。
長田は女性の扱いに長けている。
キスも、指や腰の動きも、どれもがスムーズで、とても童貞とは思えなかった。
私がつい最近まで処女だったからこそ解る。
長田は経験が豊富なんだという事を身を持って理解したのだ。
「えっと…、その……」
まさか健みたいに体だけの関係の女性がいたのだろうか?と思ったが、何となくそれは違うだろうなと思った。
『恭介は誠実でいい奴』
誰かの言葉を思い出して、長田はそんな事しないはず…と信じているから。
それでも長田の事を何も知らないのは事実で、健の時みたいに辛い想いをするのは嫌だな…と思いつつ疑惑だけがどんどん膨らんでいく。
「どうしたの?…具合でも悪い?」
なかなか続きを言わない私に信号待ちのタイミングで顔を向けた長田の眉が下がっていて、心配そうな表情で顔を覗き込まれる。
ーーー私…そんなひどい顔してるの?
「いえっ…、具合は悪く…ないです…」
ーーー長田さんにも…そんな顔させたい訳じゃない。
「じゃ…何か心配な事でもあるの?」
ーーー信じてるなんて、嘘。すごく気になってる。でも……
「また…今度、話します」
私は逃げてしまった。
今は幸せな時間だけを信じていたいと思ってしまったから。