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キセイジジツ
第14章 訪問
「あの約束は、今でも有効だからね」
ムスッとした顔でそう言う長田が子供っぽくておかしかった。
「ふふ……」
「ここで笑う?!」
「すみません…、つい…」
ため息を吐いた長田は私の手を引いて進むと、手を離して私の背に回り込み、両手で目を隠してきた。
「えっ。あ、あの…?」
「そのままゆっくり進んでー」
恐る恐る足を進める。
「はい、ストップ!手ぇ離すね」
手が離れていき、目を開く。
そこには映画館のスクリーン半分の大きさの半紙が展示されていて、その大きさにはもちろん驚いたのだが、それ以上に半紙に書かれた文字を見て、開いた口が閉まらなかった。
今までの作品達は行書だったのにこれだけは楷書で、特別感が浮き出ているようで。
「どうかな?」
「ど…どうって…」
そこにあったのは【悠里】の字だった。
「俺の最高傑作なんだけど」
「なんで……」
それ以上何も言えなくて口元を押さえていた。
「今回のテーマは"俺自身"って言ったけど実はもう一つテーマがあって、それを変換して作品名にしたんだ。気づいた?」
ブンブンと首を振る私を見て長田は言葉を続ける。
「ははっ、そうだよね。少し難しくしたし俺にしか分かんないかな。でも悠里ちゃんには教えるね。
まず、もう一つのテーマは"起承転結"なんだ。
漢字をそのまま使うのは何かなあって思って、それぞれの意味合いに近いものにしようと思って」
意味が分からずに首をかしげた。
「起は『始まり』
両親がいたから俺は始まったからね。"始まり"って意味を強く伝えたいからここだけ三文字。
承は 『翔』
いつも俺の周りにいてくれた友達がいたから挫折する事なく翔べる事が出来た。
転は『点』
人と人との繋がりという接点がここまでの道のりを転がしてくれてさ。
結は『決』
"決"にはいろんな意味があるけど、結果を決めるのは自分って事に気づいて……俺にとっての"決=結"は悠里ちゃんなんだ」
「あっ…」
震える手を強く握りしめてくれる。
「俺、決めたんだ。ありきたりだけど悠里ちゃんのそばにいて守っていきたいって。悠里ちゃんの気持ちはまだ聞いてなかったけど…俺のそばにいてくれるなら…"永遠"を"約束"する。
キミが嫌な事はしないから。…泣かないで?」
目に見えないけど愛は確かにここにあって、涙があふれて止まらない。