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キセイジジツ
第14章 訪問
映画が終わる頃には涙も止まっていて、エンドロールに入ると余韻に浸りながらボーッとしていた。
「トイレ行ってくんね」
私からそっと体を離して居間から出て行くその後ろ姿を見ながら少し切なさを感じた。
ーーー次いつ会えるかな…。
ささやかな日常が一番、幸せで尊い。
寄り添って、気持ちや感情を共有して、一日を終えていく。
私には私の、長田には長田の生活があって、私達は同じなようで同じではないから。
今は"ずっと"そばにはいられない。
「悠里ちゃん」
戻って来ていた長田が近づいてきて私の前に膝まずいた。
「何して…?」
「話があるんだ」
私の両手を握って、真っ直ぐに見つめてくるその瞳はキレイに澄んでて目が逸らせない。
「俺…10月から数ヶ月間、仕事でアメリカに行く事になりそうなんだ」
「えっ…」
ーーーアメリカ?
「俺の作品展をアメリカでもやってくれないかってスポンサーからお願いされてね。俺はアメリカに興味ないから断ってんだけど、いよいよ断れない状況になりつつあって…」
「…断れない?」
「ほら高級な肉が届いたでしょ。あれもワイロ…って言ったら言い方悪いけど、スポンサーからのお願いの印ってわけ」
「えっ、でも…」
「食べちゃったよね~。やっぱ普通の御中元じゃなかったみたいで電話してみたら『食べちゃったんですねえ』って悪い声で言われたし…」
「じゃ…行くんですか?」
ーーーアメリカなんて遠いところに?
「書道の素晴らしさを外国に伝える為に協力してくれって言われて…正直なところ迷ってるんだ。返事は今月末まで待ってくれるんだけど、悠里ちゃんの意見も聞きたくて」
「私の意見ですか?」
ーーー何で私なの。
「悠里ちゃんが明日帰ったらこれからは頻繁に会えなくなるよね。それでも俺は悠里ちゃんのとこに会いに行こうと思ってるよ。…でもアメリカに行くとなるとそれは無理だからね…」
「…数ヶ月って大体どれくらいか決まってないんですか?」
「うん、向こうの人の様子を見てから決めるらしくて…1ヶ月になるかも、3ヶ月になるかも行ってみないとって感じらしくて」
ーーーそんな…の、私…。
「悠里ちゃんに意見を求めるなんて、俺ずるいよね。分かってるんだけど、それでも聞いてみたかったんだ…ごめん」
ーーー本当にずるいよ。
私の意見を、優先してくれるの?