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キセイジジツ
第14章 訪問

ここ高雄町と、私の実家のある高宮との距離でさえも、私にとっては遠いのに。

そう思うのは私がまだ子供だから?


急にアメリカなんて言われても距離の感覚が桁違いすぎてピンとこない。

ただしっかりと分かるのは、長田がアメリカに行けばしばらく会えないという事。

私が「行かないで」と言えば行かないの?

でも私の一言で『行かない』と決めるくらいなら、自分でもそう決められたはず。

そもそも『迷わない』んじゃないかな。

たぶん『迷ってるふり』をしているんだ。


ーーー長田さんって意外と…。


「私に…どう言って欲しいんですか?」

真っ直ぐに見つめ返すと、目を伏せてため息を吐いた。

「やっぱり…するどいなあ…」
「長田さんって意外とずるい人なんですね」
「そうだね、俺ずるい人間みたい。意見を聞きたいとか苦しい言い訳だよね」
「もし私が『行かないで』って言ったら…行かないんですか?」
「悠里ちゃんがそう言うなら行かない」

ーーー嘘つき。

「じゃ…行かないで下さい」
「うん、分かった。行かない」

ニコッと微笑むけどいつもと違うのが分かった。

おもむろに立ち上がりDVDケースを漁り出している。

「ね、もう一つDVD見ようよ。さっきは悠里ちゃんオススメのだったから次は俺のオススメの…」

ーーー嘘つくの下手だなあ…。

「アクションものと、SFものどっちがいい?」
「…長田さん」
「いや、ゾンビものも結構面白いんだよね~」
「長田さんっ!」

背を向けていた長田がピタッと動きを止める。

「何?」
「嘘つかないで下さい」
「嘘なんて…」
「ついてますよ。長田さんの本当の気持ちを教えて下さい」
「え?悠里ちゃんを優先したいと思うのが…」
「長田さん!…私に言いましたよね。『キミが嫌な事はしないから』って。私は嘘をつかれるのが"嫌"です!」

長田は黙り込んでしまった。

「私にそう言ったから気にしてるんでしょ?きっと会えないのは私が"嫌"だと思うはずだって。確かに会えないのは寂しいです。でもそれは"嫌なこと"とは違うと思うんです!」
「…違う?」
「長田さんは約束という言葉に縛られすぎです。約束してもらえるのは嬉しいけど、長田さんの道のりまで約束の中に入れないで下さい。それは迷惑です!」

広い背中がピクッと小さく震えたのが分かった。
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