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キセイジジツ
第14章 訪問
長田がゆっくり体をこちらへ向ける。
「迷惑って…」
「偽りの気持ちを押しつけられても迷惑なだけです」
「そんなつもりじゃ…」
「じゃーどんなつもりなんですか?」
「俺はただ…悠里ちゃんのそばにいたくて…」
「それは嬉しいですよ。私も長田さんのそばにいたいから…。でも、こんな小娘ですよ?アメリカで待ってる大勢の人達より小娘を優先するなんて今までの長田さんならしなかったはず」
「小娘って…」
苦笑いしながら床に胡座をかいている。
「長田さんは迷ったんですよね。それは私の存在があるからで、私がいなければ迷わなかった。だから本当は行ってみたいはずです」
「そんな事…」
「行かないつもりならお肉にも手はつけなかったんじゃないですか?どこかでお肉を食べる事は"そういう事"だと覚悟していたはず。私を共犯者にしてまでも…」
「共犯者…」
「私にアメリカの話をすれば『行かないで』と言うのは予想出来たはずで、それでも私に話したのは『行ってらっしゃい』と言って欲しかったからでしょう?」
しばらく私を黙って見つめたあと、頭を垂れて髪を激しく掻き回した。
髪を結んでいたゴムが外れて髪がはらりと流れ落ちる。
ガバッと上げた顔にさっきまでの色は見えなくて、やっと覚悟を決めてくれたのだと分かった。
「ほんっとにキミは…」
それは私に対する誉め言葉。
「ごめん。俺、嘘ついてた。最初は本当にアメリカには興味なかったんだけど、書道を外国にもっと広めたいって気持ちが少し出てきて…行きたいって思った。でも、悠里ちゃんの事を考えたら『行きたい』なんて言えなくて…。悠里ちゃんに『行かないで』って言われたら諦めつくかと思ったけど無理だった」
「はい…」
「それに不安だったんだ。短い期間ならまだしも、長い期間離れてしまったら悠里ちゃんの気持ちも離れるんじゃないかって。俺より良い男なんてたくさんいるだろうし、俺がそばにいない間に変な男に言い寄られたらどうしようって…」
「はは…」
「笑い事じゃないよ!ここ何週間かすげー悩んだんだから。人の気持ちだけは縛る事が出来ないって分かってるからさ…。でも俺の気持ちを押しつけすぎちゃったのは確かで、さっき迷惑だって言われて、あぁそうだなって思ったよ」
「私も…さすがに迷惑は言い過ぎました。すみません…」
本当は迷惑なんかじゃないんです。