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キセイジジツ
第14章 訪問

再び長田は私の膝元まで近づいてきて、両手を握りしめてきた。

少しだけ手汗をかいていて緊張してたんだな…と長田の気持ちも理解する。

「二兎追うものは一兎をも得ず…って言うように、悠里ちゃんの事もアメリカの事も追ったら、どちらもダメになるかもと思ったんだ。俺、そんなに出来た人間じゃないからさ…本当に欲しいものに関しては迷っちゃうんだ」
「はい…」
「本当に行ってもいいの?悠里ちゃん後悔しない?俺の気持ちが変わる事はないけど…いろいろ心配だよ。アメリカ行かなくてもそんなに会えないはずだけど、高宮と高雄の距離ならいくらでも時間作って会いに行こうと思ってたし…。何より…俺自身も悠里ちゃんと離れるのはやっぱり寂しい…」
「はい…」

見つめ合ったまま、しばらく黙ってた。

まるで心と心、いや目と目で会話をするかのように。

「…それでも、キミは…」
「応援します」
「っ…」
「長田さんの事、待ってます」

ギリッと奥歯を噛みしめる音がした。

「私、本当にまだまだ子供だし、長田さんと離れたくないって、ずっとそばにいたいって思ってます。でもそれは偏った愛情で、長田さんの事を想うなら進む道を邪魔しちゃいけないと何となく思いました。…逆に考えると、私が長田さんに道を邪魔されるのは嫌だなと思ったので」
「はは…」
「長田さんは離れても気持ちは変わらないって言ってくれましたけど、私は正直分からないです。会える距離なら違うかもしれないけど、アメリカだと遠すぎてよく分かんないんです…。だから私は約束は出来ません」
「そんな…」

一気に泣きそうな顔になってしまった。

「約束は出来ませんけど、やっと分かったんです。私、長田さんの事が好きって。長田さんと先の未来を歩いていけたらなって…。だからアメリカから長田さんが帰って来た時にお互いの気持ちが変わってない事を"祈ってます"。」
「悠里ちゃん…」
「長田さんも毎日祈って下さい。祈りはやがて願いとなり、願いはやがて事実となる事を私は信じていますから。…言いすぎかなあ?」
「いや、そんな事ないよ。悠里ちゃん、ありがとう。悠里ちゃんは約束しなくていいよ。お互い祈り合っていよう。そうすれば俺達は毎日繋がっていられる」
「はい、そうしましょう」

もう心配はない。これで笑っていられるはず。

お互いがそう自分に強く、言い聞かせた。
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