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キセイジジツ
第15章 距離
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翌朝、実家へ帰る日。
長田は仕事に行く前に見送りにきてくれた。
そんな時間に余裕ないはずなのに。
穏やかな顔で見つめてくれる。
「またね」
「はい、また」
他に言葉はいらないと思った。
それ以上言われたら、言ってしまったら泣いてしまいそうだったから。
きっと、大丈夫。
そばに彼がいないだけで日常に戻るだけ。
遠距離恋愛をしている人はたくさんいるから、私達にも出来るはず。
寂しくなったら電話だって出来る。
ただ、会える回数が減るだけ。
どうしようもなく会いたくなった時、その時はどうしたらいいのかな。
そんな事を考えながら車に揺られる。
ひたすら同じ事を考えていたのにも関わらず、時間は意外にも経っていたのか、車から見える景色は見覚えあるものになっていた。
見覚えある事が今は寂しい。
しばらくして自宅が見えてくると、誰かが立って待っているのが見えた。
目を凝らして見つめてみるとそれは他ならぬ親友の姿で、私は早く車から降りたくてウズウズする。
やっと停車された車から飛び降りて、そちらへ走った。
「りっちゃん!」
「お帰り~」
「ただいまぁ~」
抱きついた私の頭をポンポンと軽く叩いてくれる。
「今日泊まってもいい?」
律からそんな事を言うのはめずらしい。
「大丈夫だけど……」
「話があるかなって思って」
おどけた様子でそう言う。
ーーーりっちゃん……。
「うん、あるある!」
「好きなだけ聞いてあげるから」
「ありがとおー!」
「で、お土産は?」
「えっ」
「ちゃんと食べ物だよね?」
「う、うん」
「よし。じゃー悠里んち入ろっ」
「ええー?!」
ーーー結局そっちかい。
感動した気持ちを返して欲しい……と思いながらも、律が来てくれたのはやっぱり嬉しい。
もしかしたら、律も照れ隠ししてるのかもしれないし。
「律、元気そうだね」
車から降りてきた旋が、律に近づいてくる。
名前を呼ばれた律は目を見開いて固まった。
「おにー……ちゃん」
「また大きくなってる」
旋はニコニコと楽しそうに律の頭を撫でる。
律は何も言えずに、ただ旋を見上げるだけで。
その横で私はアワアワするだけで何も出来なかった。
再会の中にある感情は感動だけじゃなくて。
複雑な気持ちが少しでもあれば、気まずいものだ。
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