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キセイジジツ
第15章 距離
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「あっ……」
真悠子と旋が見えなくなると悠真が声を出した。
「どうしたの?」
「それが、その……」
私の問いかけにも口ごもって様子がおかしい。
何だか顔色が悪いような気もする。
「なに、気分悪いの?」
「えっ悠真大丈夫?」
律も心配そうに悠真へと近寄る。
「りっちゃんごめん…もしかしたら……」
「えっ?」
「ここで旋さんと鉢合わせたの俺のせいかも」
「なっ……」
律は訳が分からないという表情のまま固まった。
「ちょっと悠真、どういう事?」
「実はこの入場券さ旋さんから貰ったんだ」
「えっ前売券って言ってたでしょ」
「あれ嘘なんだ。ばあちゃんちで旋さんに貰ったんだ。余ってるからあげるよって言われて」
「あぁそういう事。でも何で嘘ついたの?」
「旋さんから貰った券って知ったら、りっちゃん嫌がるかなって思って…」
「あー…」
ーーーバカ悠真。私にくらい言えばよかったのに。
ため息を吐きながら律を見ると話はちゃんと聞いていたようで複雑そうな表情をしていた。
「りっちゃん、バカ悠真がごめんね」
「悠里…」
「どうする?遊園地やめとく?」
「あっ……」
「りっちゃんの誕生日なんだから、りっちゃんには笑顔でいて欲しいからさ、無理しないでいいからね」
「うん……」
しばらく黙り込む律を悠真と私も黙って見つめていた。
悠真は帰る事になった時のために電車の時間を検索している。
ーーー私もそんな気がしてるよ。
「あ、あのさ…」
律が小さく声を出す。よく見ると眉が下がっている。
「私は大丈夫だから」
「えっ本当に?!私達に気ぃ遣わなくていいよ?」
「ううん、平気。逆に気を遣わせてごめんね悠真」
「いや、俺は全然…」
律の予想外の言葉に私達は戸惑う。
「私もいい加減に慣れなきゃね」
「りっちゃん……」
慣れなきゃという言葉に胸が締めつけられるようだ。
「あの人は何があってもお兄ちゃんだからね。それが変えられないなら私が変わらないと。だから二人には悪いけど協力してほしい……」
「もちろんだよ!」
「りっちゃんのためなら何だってするよ俺ら」
「ありがとうっ」
律が大きく口を開けて笑う。
ほんの少し吹っ切れたような、そんな笑い方だった。
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