この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
キセイジジツ
第15章 距離
真悠子は今必死だった。
そばにある手すりに必死に掴まっている。
昔から数々の伝説を(主に周りが勝手に)作ってきたが、真悠子にだって苦手なものはある。
それは高いところだ。
真悠子は高所恐怖症という弱点を持っている。
基本的に人の挑発を受ける真悠子ではないが、ただ一人どうしても挑発をかわせない相手---
それが旋だ。
幼馴染みという立場で旋とは苦楽を共にしてきた分、真悠子にとって旋は時にライバルでもある。
「大丈夫か?」
「……うるさい」
「ジャンケンに負けるなんて残念だったな」
「ううー悔しい……」
旋とジャンケンして負けた真悠子は、旋が乗りたいと言う観覧車に泣く泣く乗る羽目になったのだ。
「こんなの何が面白いのよ」
「そんな怖いならこっち来いよ」
「は?」
「俺が抱きしめてやるから」
旋が妖艶に微笑むも、真悠子は興味なさそうに視線を逸らす。
「はあ……」
「何だよ、普通の女ならな……」
「悪いわね、普通じゃなくて」
真悠子はわざと遠くを見ている。
そうする事で恐怖心を紛らわせようとしている。
---だって女は見た目が重要なんだろ?
旋は勉強は出来て真悠子並みに頭は良いのだが、どうも恋愛の事になるといまいち女心を理解出来ていない。
見た目重視の女は旋にすぐ寄ってくる。
旋も来る者拒まずタイプなので常に彼女はいるのだが、徐々に旋のアホな本性が見えてくると女は去っていくのだ。
そんな旋の姿を真悠子はずっとそばで見てきた。
もちろん旋にも良いところはあるのだが、本人がそれに気づいていないパターンなのでどうしたものかと真悠子は月に一度は考えている。
なぜ月に一度なのか?
それは旋が彼女と最高で一ヶ月しか続かないからだ。
「アホ……」
「アホじゃねーよ」
「女心が分からない男はアホなのよ」
真悠子が鼻で笑う。
アホ呼ばわりされても真悠子の事はどうしても嫌いになれない。
---真悠子は何で俺の魅力に気づかねーんだろ?
「真悠子。お前、俺の事嫌い?」
「なに急に」
「いいから答えろよ」
「しいて言えば、嫌い」
「まじで?!」
---いつから嫌いだったんだ?
旋はかなりショックを受けていた。
今までこの質問をして「嫌い」と返ってきたのは初めてなのだ。
旋はそっと外へと視線を向けた。