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キセイジジツ
第15章 距離
悠真といっしょに律を家まで送ると、律の両親はすでに帰宅していた。
「あら二人とも久しぶりねえ。晩ご飯いっしょに食べていかない?」
律の母にそう誘われたが、誕生日くらいは家族水入らずで過ごして欲しい。
そう思って断り、律の家をあとにした。
辺りは薄暗くてほんのり寒い。
「…旋さんまだ帰ってなかったね」
悠真が空を見上げながらポツリと言う。
私も同じ事を考えていた。
「だね。でもこのタイミングで帰省したのは狙ったんだと思うよね」
「俺もそう思う」
「旋さんって不思議だよね」
「まゆちゃんがマトモに見えるよね」
二人で頷きながら自宅付近へ到着すると、見覚えある後ろ姿が目に入った。
悠真も気づいたのかとっさに電柱のかげへと隠れる。
「ま…真人兄?」
「うん。しかも旋さんもいる」
よく見れば真人の向かいには旋の姿があった。
二人で笑いつつ何か話しているようだ。
「あの二人…よく分かんねーけど仲良いよな」
「そだね。性格とか違うはずなのに…」
真人はどちらかと言えば真面目なタイプの友人が多い。なので旋みたいなチャラチャラした雰囲気の人といっしょにいるのは珍しい。
「つーか、まゆちゃんどうしたんだろ」
悠真が首をかしげる。
そうだ。確かに真悠子の姿が見当たらない。
「また、旋さんが怒らせたのかも」
以前にもこんな事があったなと思いながらつぶやくと、悠真があぁと納得する。
「俺が聞いてくるよ」
「えっ」
「悠里はここで待ってて」
「ちょ…悠真っ」
電柱のかげに私を残して悠真はあっという間に二人の元へ走っていった。
しばらく様子を見ていた私は数人の通行人に怪訝な顔をされたものの、なに食わぬ顔でやり過ごしていた。
そして数分後。やっと旋が歩き始める。
私が隠れている電柱の向かい側ーーー
なにか大きな包みを抱えた旋がニコニコしながら家路を急ぐ。
ーーーあれってもしかして……
その時、携帯が震えた。
画面をタップすると悠真からのラインが届いている。
開くと指二本を立てた“ピース“の絵文字のみ。
こんな時は“もう大丈夫“というニュアンスを含んでいる。
ーーーなにか聞き出せたかな。
そう思いながら電柱を離れて、自宅へと向かった。