この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
キセイジジツ
第15章 距離
自宅に戻ると真人は勿論、真悠子も帰宅していた。
「真人ー、肩揉んで」
「はいはい」
真悠子の肩を素直に揉む真人。
ーーー全員揃うの久しぶりだな…。
「あ、悠里おかえり」
真人がこちらを見てふっと微笑む。
「ただいま」
真悠子は真人の肩揉みが気持ちいいのか一瞬、目を開けて微笑んだあとすぐ目を閉じた。
台所をちらっと覗くと母がバタバタと食事の準備をしていた。
母の隣にはなぜか悠真の姿も。
祖母宅に行ってから悠真は料理に目覚めたのか台所に立つ事が多かった。
ーーー…私より女子力高いかも。
何となく焦りを感じて母に声をかける。
「おかーさん。何か手伝うことはー?」
「んー、特にはないかな。あっ、テーブル拭いて」
「はーい…」
先に手洗いをしてテーブルを拭いていると入浴を済ませた父が居間にやってきた。
「悠里、おかえり」
父に対しては絶賛反抗期中な私は顔も見ずに小さい声でただいま…と返事をする。
父は私にそんな態度をとられる理由を何となく気づいてるのか何も言わない。
ふっと笑ったあと、台所に向かっていた。
「ママー、ビールある?」
父が母に尋ねると、母は面倒くさそうに冷蔵庫を指差して口を開く。
「聞く前に、自分で見てみたら?」
「そうだよね~ごめんごめん」
父はヘラヘラ笑いながら冷蔵庫を覗くと缶ビールを2本取ってダイニングテーブルの方に戻ってきた。
椅子に座るとプルタブを開けて喉に流し込んでいく。
「ぷは~…うめえ~」
首にタオルを引っかけてお腹辺りをポリポリ掻いてるとこなんて、どこからどう見ても普通のオジサン。
外ではバリバリと仕事をこなすやり手の仕事マンらしい。
私は見た事ないけど、母はそう言ってた。
家と外でのギャップがあるのは誰にでもあると思う。
私がどうしても許せないのは父の行動。
母が泣くような事をするのだけは許せない。
「ご飯できたよ~」
母の代わりに悠真が声を張る。
ーーーうん。今はお父さんよりも考える事がたくさんある。気にするのはやめよう。
晩ご飯の時間は楽しかった。
真悠子と真人がいたからってのも大きいかもしれない。
ーーーこんな時間がずっと続けばいいのに。
叶いそうで叶わない願いが漂っていた。