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キセイジジツ
第15章 距離
「分かりませんっ!!」
「まーまー、りっちゃん、興奮しないで。ほら糖分とると落ち着くよ。あーん」
真人は律をなだめながら律の口元にチョコレートを持っていく。
さすがにあーん。するのは恥ずかしいのか律はそれを指で受け取って口に含む。
「…ん。美味し…」
大人しくなった律を見て微笑みながら真人は話を続ける。
「今から話すのは同じ兄として見てきた旋を俺なりに結論づけたものだけど、さっきも言ったように愛情表現が下手だから誤解されちゃうだけで、旋はりっちゃんの事が大好きだよ」
律は難しい表情をして真人を見つめていた。
ーーーうん、分かるよ、りっちゃん。さっきまでの私ならそんな顔してたと思う。
「まぁ信じられないのも分かるけどね。…じゃー例えばだけど、旋は真悠子の事を好きだと思う?」
「…はい」
「恋愛対象としてか、幼なじみとして好きかどっちだと思う?」
「えっ?…普通に恋愛対象としてだと思いますけど…」
ーーー私もそう思ってる。真人兄ちゃん何言ってんだろ?
「いや、不正解。旋は今のところ真悠子を幼なじみとしか見てないよ」
「えぇっ!」
「旋は昔から“ああ“なんだ。とにかく誤解される。好きな素振りを見せて実はそうじゃなかったり、嫌がらせをするかと思えば実はその相手を好きだったりね」
ーーーほ、本当に?!
じゃ…まゆちゃんと旋さんは東京でルームシェアしてる“ただの幼なじみ“であって、恋人まで進んでないって事?
旋の事はもちろん、真悠子の気持ちまでよく分からなくなって私は頭がグルグルしていた。
「りっちゃんは何で嫌がらせをするのか旋に聞いた事ある?」
「ない…です」
「一度、聞いてみたらいいよ。りっちゃんの想像とは違った答えが返ってくるはずだよ」
「でも…」
「旋とずっとギクシャクしたままでいいの?」
「っ……」
律は目を見開いてしばらく黙っていた。
複雑かもしれないけど、旋はたった一人の兄だ。
律としても嫌がらせさえなければ普通に兄を慕って成長してきたかもしれない。
それが今となって誤解だなんて聞かされてもなかなか頭はついていかないだろう。
でもーーー
旋の愚痴を言うのは、やっぱり旋を気にしているという事でもある。
自分の本心に気付いてないだけ。
いや、もしかしたらーーー
気付かない振りをしているのかもしれない。