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キセイジジツ
第1章 帰省
俺らは一卵性双生児というやつでほとんど区別がつかない状態で産まれてきた。
乳幼児期から幼少期は家族以外からは見分けがつかないと言われていたらしい。
小学生の頃は悠里が俺の格好をして、俺が悠里の格好をして同級生や担任を騙すっていう遊びをしょっちゅうしていた。
そして中学生になると悠里はどんどん女らしくなり、俺は男らしくなった。
普通の姉と弟なら思春期が訪れると必然的に距離が出来るものだろう。
でも俺達は違う。普通じゃない。
ーーー考えてる事が手にとるように分かるからなぁ。
ふっと軽く息を吐きながら笑っていると悠里がバッと振り返る。
「ゆーまー、私可愛い?」
「可愛いよ」
「良かった~」
嬉しそうにふんわりと笑う悠里は最高だ。
ーーー俺も大概シスコンだな。
「荷物これだけ?」
足元の荷物に小さなバックを詰め込み、ひょいっと持ち上げる。
「うん。ね、やっぱり送らなくていいよ」
「何で?」
「だって…悠真も予定とかあるだろうし…」
申し訳なさそうな表情の悠里を見て嫌な予感がした。
「もしかして…何か聞いた?」
「えっいやぁ…?」
ーーー聞いたな。…あの野郎、後でシメる。
自分の友人の顔を思い浮かべながら悪い顔をする。
それを見た悠里は分かりやすくうろたえた。
「悠真、顔怖いよ!」
「悠里は気にしなくていーよ。さ、いこっ」
手を引いてそっと玄関を出る。
ーーー晴れて良かった。
座りやすくした自転車の後部に悠里を乗せてバスターミナルへ向かう。
少し都心部へ出ると通勤・通学中の人がちらほら見え始める。
あの中で今を満足に生きてる人ってどれくらいいるんだろう。
セミの鳴き声が聞こえて、夏の始まりをふと感じた。
夏の独特な匂いを感じてセンチメンタルな気分に浸ろうかと思ったが、すぐ後ろから力が抜ける叫びが聞こえた。
「お・し・り、いたい~~!」
「気のせい、気のせい」
「えー?」
「痛いのは一瞬だけ。ほら、もう着くよ」
バスターミナルが見えてきた。
後ろの悠里が少し俯いた気がした。
バス停の前で自転車を停めて悠里の顔を覗く。
「俺も二日後に行くから」
不安そうな顔が少し綻ぶ。
「着いたら連絡して」
「うん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ーーー心配ないよ。
悠里を乗せたバスがゆっくりと出発した。