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キセイジジツ
第1章 帰省

バスがゆっくり出発した。

こちらへ手を振る悠真へ手を振り返す。

バスのスピードが速まる。
悠真も見慣れた町並みもだんだん遠くなった。

大きなビルが並ぶこの町は交通の便も良くて住みやすいけど、目に見えないだけで空気が汚れてるのを肌で感じてしまう。
なに不自由なく暮らしてきた私だけど、たまに息苦しい。

ーーー贅沢って言われたら、それまでだけど。


改めて車内を見回すと女性が二人、男性が一人乗っていた。
一昨年のお盆時期に乗った時は満員に近かった。
それに比べて夏休みが始まったばかりでこんな早朝だ。
時間帯や行き先を考えれば人が少ないのが普通なんだろう。

早起きして正解だったなと思いながら携帯を探す。
画面を見るとラインが届いていた。
相手は悠真だ。躊躇なくメッセージを開く。

【お腹すいたらバック開けてみ】

バック?疑問に思いながらも自分がお腹すいてる事に気付く。
あぁ…何も食べてなかったなと思いながらバックを開けると弁当箱とお茶が入っていた。

ーーーいつの間に。気付かなかった。

弁当箱を開けるとおにぎり二つと卵焼きとミートボールが入っていた。
卵焼きを一口食べてみるとすぐに分かる。この味付けは私が教えたから。
おにぎりは私の好きなツナマヨと梅干しが入っていた。
三角型じゃなくて俵型のおにぎり。

「…おいしい」

ふと窓の外を見ると一軒家や個人でやってる飲食店が多くなり、のどかな風景になっている。
徐々に自然が増えてくる風景を見つめながら私は弁当を完食させた。

いつもの私ならお腹が満たされると眠たくなる。
カーテンを閉めて窓に頭を預けて揺られながら眠る。
でも今日はそうしない。眠るのは何だかもったいない。

携帯に挿したままのイヤホンを耳に付けて曲を探す。
ー倖田來●さんの恋の●ぼみーを再生させた。
好きな曲。恋する気持ちをストレートに表現していてすごく共感してからは何度も聴いている。

ーーーめちゃくちゃ好きな気持ち…

大好きな人の顔を思い浮かべる。胸が高まる。顔が熱くなってるのが自分でも分かる。

ーーー早く会いたい。

会いたい時に会える人ではないから、会える可能性が少しでもあるなら可愛い姿で会いたい。

口元が緩むのを感じながら外の景色へと意識を集中させた。
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