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キセイジジツ
第1章 帰省
外を眺めていると大きなスーパーが見えてきた。
祖母と行くスーパーだ。
そのスーパーを過ぎてしばらくすると、何度か行った事があるコンビニや叔父さんが常連のパチンコ屋がある。
そのパチンコ屋の隣、終着点であるバス停に到着した。
他の乗客が動くのを待って最後に下車する。
この町並みを懐かしむほどこのバス停へ来た事はないが、下車してからすぐ目に入るサビついたベンチには見覚えがあった。
思わず腰かけて背もたれを指でなぞる。
汚れた指先を見つめながら一昨年に家族みんなで来た事を思い出した。
ーーー楽しかったなぁ。
バス停から祖母宅へはまだ距離があり、反対車線側にあるバス停から乗り換えないといけない。
一度反対側へ渡って時刻表を見る。
バスが来るのはあと15分後。
仕方ない、ベンチに座って待つしかない。
車がどんどん目の前を過ぎていく。
次の車が過ぎたら向こうへ渡ろうと思った時、車のクラクションが鳴った。
ビクッとした私は動きを止めてそれらしい車を目で探す。
一台の車が私のいるバス停の前で停車した。
助手席側の窓が開いて若い女性が顔を出す。
「悠里ちゃん?」
誰だろう、私の名前を知ってるなら知人なのだろうがそれらしい記憶が見当たらない。
その人の顔を探るように見つめながら答える。
「そうですけど……あなたは…?」
返事を聞くと笑顔のまま車から降り、こちらへ向かって来る。
目の前で止まったかと思うと前触れもなく両肩をグッと掴まれた。
そしてギリギリ認識できる距離まで顔を近付けたのだ。
至近距離すぎて身動きが取れない。
「私の事、忘れちゃったの~?」
大きくてクリクリした瞳は遊び心を宿していた。
目元の化粧は少し濃いが顔のパーツは整っていて肌はツルツルでキメが細かく、一般的な美人だ。
「最後に会ったのはいつだったかな……」
次の言葉を待っていると、バタンと車のドアが閉まる音がして、足音と共に誰かが近付いてくる気配を感じた。
「悠里、久しぶり」
少し高めだけど柔らかい声。
振り返って見つける懐かしい顔。
「元(はじめ)兄ちゃん!」
「また大きくなった?」
「え、そうかな?」
「背伸びたろ」
元兄ちゃんは優しい笑顔をしながら私の目の前にいる'その人'の後ろ襟をガッと掴み、私から引き剥がした。