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キセイジジツ
第1章 帰省
「美咲(みさ)、近すぎ」
「えーだってぇー」
「だってーじゃない。困らせるなよ」
元兄ちゃんと話してる'その人'は美咲と呼ばれていた。
ーーーみさ、みさ、み、さ?……あぁ!!
「元兄ちゃんの彼女だ!」
結構な大声が出たようで二人はビクッとしたけど、すぐに視線を合わせて私を見つめる。
「思い出してくれたんだ~嬉しい!」
「美咲さん、一度会った事ありますよね?」
名前を思い出すと記憶を辿るのは簡単だった。
美咲さんとは一昨年に会っている。
「そう!一昨年にはーくんの家で」
ーーーん?はーくん?
「こ、こら!はーくんはやめろっ!」
珍しく元兄ちゃんが焦っている。
「あ、ごめん、ついつい」
「お前なぁ…恥ずかしいだろ」
首を傾げている私に元兄ちゃんが照れながら言う。
「はーくんって俺の事…」
「はじめだから、はーくんね」
ーーー驚いた。こんな顔もするんだ、元兄ちゃん。
「悠里、みんなにナイショな」
「うん!」
安心させるように力強い返事をする。
ーーー悠真に教えなきゃ!
私の頭の中はビックニュースを掴んだ事に興奮していた。
「さ、立ち話はこのくらいにしてと」
「そだね。悠里ちゃん、後ろ座ってねー」
「あ、そーいえば、何でここにいるの?」
二人に会えたのは嬉しいけど、どうしてタイミング良くこの場にいるのか疑問だ。
「車ん中で話すよ。ほら乗って」
美咲さんはすでに助手席に座っていた。
元兄ちゃんが後部座席のドアを開けて私が乗るのを待っている。
言われるがまま乗り込むとドアが閉まり、元兄ちゃんが運転席へ座った。
車が動き出して最初の赤信号で停車した時に元兄ちゃんが口を開いた。
「昨日、真悠子から連絡がきてね」
意外な言葉に耳を疑う。
「悠里が明日そっち行くみたいだから、バス停までお迎えお願い出来る?って言われて」
「ど…うして…」
「たぶん悠真ではないよ」
「うん…それは分かる」
悠真にはしっかりと口止めをしている。
何か聞かれたら親友の'りっちゃん'の名前を出すように言ってある。
もちろん'りっちゃん'にも了承済みだ。
「姉の勘、ってやつかな?」
「そんなの…」
「あるわけない?」
振り返った元兄ちゃんの瞳は穏やかに揺れていた。
全てを知ってる、大人の瞳。
私はそれ以上、何も言えなかった。