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キセイジジツ
第4章 発覚
玄関のドアに耳をくっつけて階段を降りていく足音を必死に聞いている。
やっと聞こえなくなったところで耳を離して安堵のため息を漏らすと、隣からも同じようにため息が聞こえた。
「嵐が去った……」
「りっちゃん、まじごめん!」
身を屈めて両手を顔の前で合わせたポーズの悠真が必死に謝ってくる。
「もういいよ。仕方ないし」
「まさかこのタイミングで帰って来るとは思わなくてさ…」
さっきまでこの場にいた人の顔を思い浮かべながら話す。
「悠真、泣きそうだったね」
「俺の中で…一番恐ろしいのがあの人なんだよ…」
「うん、恐ろしいっての分かる…」
「目だけ笑ってない時とか特にな……」
「玄関開けて顔見た時、目だけ笑ってなかったよ…」
「だろ…つーか、昨日の夜に帰って来てからずっと目だけ笑ってないっていう…」
律はずっとそんな目なのを想像し、悠真は昨夜を思い出し、二人して震え上がってしまった。
「とりあえず、何もしちゃいけないんだよね」
「あぁ…すぐにバレるからな」
「向こうから連絡きた場合は…」
「余計な事を言うなってさ」
「そっか…」
悠真はコーヒーをすすりながら携帯を触っている。
「まぁ…他の人に連絡しちまえばいーんだよ」
「え、他の人って?」
「あの人の味方ではない人に」
そう言うと、いたずらっ子みたいな顔をして携帯を握りしめたので何か策があるんだなと思い私もコーヒーをすすった。
ふぅ…と息を吐いて自分を落ち着かせてあの人ーー真人さんの顔を思い浮かべる。
艶めく髪にきれいな二重の下に佇む漆黒の瞳、
薄く感じるけど存在感を隠さない唇、
高身長で鍛え上げられて引き締まった体、
見た目だけで言えば誰もが魅了されるだろう。
「それにしても…イケメンだよね」
「…そうだな」
そのまま黙り込む悠真だが、顔や体の基本的な造りは真人に似ていて成長途中ではあるがほとんど立派な男だし、愛嬌のある悠真の方がよほどモテるだろう。
「悠真、今から出かけない?」
「え?」
「天気良いし、どっか行こーよ」
「…どこに?」
「…甘いものが食べたい」
「いいね、俺ドーナツ食べたい」
「じゃドーナツにしよっ」
「チャリ取ってくる!」
そう言うとすぐに家から出て行く。
私は着替える為に部屋に戻った。