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キセイジジツ
第1章 帰省
頭の中が混乱している。
ーーー何で?何で分かったの?まゆちゃんには話してないのに。
姉の真悠子と最後に会った日の事を思い出そうと頭をフル回転させた。
確かまだ1ヶ月も経っていない。
大学を卒業してこの春から就職し、会社の寮へ入ったはずの真悠子が今月の初めにいきなり帰って来た。
父と母、ついでに私達きょうだいを呼び寄せて重大発言をサラッと済ます。
『会社辞めた。やりたい事あるから東京行く』
家族みんな言葉が出なかった。絶句とはこの事を言うんだな、と身を持って学習した日だ。
『そゆことだから。とりあえず寝る』
そう言って本当に寝てしまったから何も聞けないまま一夜が過ぎた。
翌朝、起きてきた娘に父と母は詳しい理由を訪ねたが返ってくる言葉は曖昧なものばかり。
『まだ言えない。迷惑かけないから。私を信じて』
それで渋々ながらも許してしまう両親を誰も責めはしない。
なぜなら、姉の真悠子は昔からこういう人間なのだ。
遡る事、約10年前の出来事。
小学校高学年の頃に真悠子のクラスで事件が起こる。
クラスのリーダー的存在の女子生徒Aの給食費を入れた封筒の行方が分からなくなった。
発覚したのは掃除が終わった後、帰りの会が始まった時にAが焦った表情で担任に駆け寄り相談したからだ。
Aによると掃除が始まるまでは確かに引き出しの中にあったという。
そして掃除が終わる頃に真悠子が自分の机に近付いていたのを見た事、何となく引き出しを確認すると封筒がなくなっていたという事を担任に告げた。
担任は真悠子を疑ってはいなかったが念の為に真悠子に話を聞いてみると、真悠子は自分のヘアピンがAの机の近くに落ちたから拾っただけだと言った。
教室のどこかにあるだろう、と考えた担任はAに『先生が探してみるからとりあえず帰りなさい』と普段通りに下校させた。
教室中をくまなく探してみるが封筒は見当たらない。
一旦、職員室へ戻ったところにAの親から電話がかかってきた。嫌な予感は的中し、どうやらお怒りモードだ。
落ち着かせようと事情を説明しても治まらず『今から学校行きますから、相手の親御さんも呼んで下さい!』そう言って電話は切れた。
ため息を漏らしながら仕方なく真悠子の親御さんへ電話をかけ簡潔に事情を話すと『すぐ行きます』と電話は切れ、本当にすぐに来てくれたのだ。