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キセイジジツ
第5章 疑惑
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携帯を取り出してラインを開きメッセージを送信したところに、兄貴が玄関のドアを開けて入ってきた。
靴を脱ぎながら「ばーちゃんは?」と聞いてくる。
「仏壇の部屋だよ」と教えると兄貴は紙袋だけを持って仏壇の部屋へ向かった。
俺は台所へ向かい冷蔵庫を開けて好きな炭酸飲料を取り出して居間へ戻った。
祖母は炭酸飲料は飲まないが俺達が来る時期になると買い揃えてくれる。
三年前に祖父が亡くなって祖母宅を訪れた際に冷蔵庫を覗くと、炭酸飲料はもちろんジュース自体がなくて俺は母親に「何で?」と聞いた事がある。
すると母は「おばあちゃんは炭酸嫌いなんよ。でもあんた達〈孫〉が来る時は買っててくれるんよ」と教えてくれた。
祖父が亡くなったのは春先で俺達は来ない時期。
普段から言葉数が少なくあまり笑わない祖母の事を苦手だなと思っていた俺は、些細だけど思いやりを感じる事実に感動した事を覚えている。
まったりしながら回想していると兄貴が居間に入ってきて微笑みながら俺を見ている。
「秦家に行くぞ」
「え、もう?着いたばっかなのに」
「時間が惜しいから」
「ばーちゃんは?」
「行かないそうだ」
言葉足らずの俺の考えを読み取ってくれる兄貴。
「向かいの森山さんとランチするらしい」
「ランチ…」
「女子会らしい」
「へぇ…」
女性は何歳になっても〈女子〉なんだな。
祖母に限った事じゃないが、少しめんどくせーと思ってしまった。
「早くしろよ」
「あっうん」
急かされながら祖母に挨拶をして車に乗り込む。
秦家までは5分の距離だからすぐに着く。
駐車し終えると後部座席の紙袋を指差しながら「それ持って降りろ」と言うのでその通りにすると玄関の方から声がした。
「真人、よく来たな」
「元兄さん、久しぶり」
「大学は?」
「余裕あるから大丈夫」
「優秀だな」
二人が会話を聞きながら近付くと元が俺に気付く。
「悠真も元気そうだな」
「元兄ちゃん、久しぶり」
「また背ぇ伸びた?」
「そうかな?」
和やかに会話をしていると真人の強い声が割り込む。
「元兄さん、悠里は?」
俺はドキリとするが元は至って平静に笑っている。
「悠里は健と出かけたよ」
「どこに?」
「さぁ、イオ●とか?」
「そっか…」
元の言葉に渋々納得したのか、真人は秦家に入って行った。
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