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キセイジジツ
第5章 疑惑
コーヒーを飲みながらまったりと過ごし、何となく腕時計を見ると午後4時を過ぎていた。
「そろそろ帰ろうか」という事になり、その前に1階の大型スーパーに寄って食料品や飲料を購入する。
車に戻り、家に向けて発進させる。
悠里は自分の耳を触りながら口元を緩ませていて、俺まで口元が緩む。
ふと、さっきの悠里と長田の会話を思い出す。
一昨日は悠里が間違って酒を飲んでしまった時だ。
その時にキッチンで何があった?
気になりだすともう止められない。
「なぁ、悠里」
「ん?なぁに?」
弾んだ声が返ってくる。
「さっき…長田が悠里が具合悪そうでって言ってたろ。それ…本当なの?」
悠里の顔が曇ってしまった。
「一昨日って言うと悠里がお酒を飲んでしまった日だよね。具合悪い事と関係あるの?」
信号待ちの時に顔を覗き込むと涙目になっていた。
「えっ……聞いちゃマズかった?」
首を大きく左右に振っている。
「ちっ…ちがうの…」
「はっ、話したくない事なら無理に話さなくてもいいよ!だから泣かないで…」
信号が青になった。アクセルを踏む。
「…あの日、たけちゃんと外でキスしたでしょ」
「…あぁ、抱っこしてのキス?」
「そう。すごく嬉しくて恥ずかしくてドキドキしてた。だけど…そのあと私にごめんって謝ったよね」
「…うん、謝った」
悠里の声が震え出した。
「ど、どういう意味で謝ったのか分かんなくてっ…たけちゃん私の事本当は好きじゃなくて、キスもしてみただけなのかなって、マイナス思考しか出来なくて…いろいろ考えてたら具合悪くなっちゃって……」
俺は黙ったまま聞いていた。
「そしたらキッチンにたまたまいた長田さんがコップにポカリを注いで渡してくれて……その時にもお礼は伝えたんだけど、まさか今日会うとは思わなかったから、一応もう一度お礼を伝えとこうと思ったの」
俺は胸が締めつけられた。
「そっか。話してくれてありがとう。…でも訂正したい事がある。あの時謝ったのは勝手にキスしたからで、悠里の事は本当に好きだよ。俺も動揺して謝る事しか出来なかったし、悠里が誤解するのはあたり前だね。本当にごめん」
「……ううん、いいの。そのあとたけちゃんと結ばれて、あの時は何か理由があったのかなって思ってた。今聞けて良かった」
悠里はそう言って、泣きながら笑った。