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キセイジジツ
第5章 疑惑

秦家に着いて玄関を開けて「健兄ちゃーん」と呼ぶと健がバタバタしながらやってきた。

「悠里!悠真!」

悠里に会えたのがよほど嬉しいのか、悠里のついでに俺まで抱きしめられる。

「分かったから、離して」
「あ、ごめんごめん」
「時間が惜しいだろうから、移動しながら話すよ」

健の車に乗り込み、車が発進する。

「で、真人兄には俺と悠里の二人でイオ●に出かけるって言ったから、とりあえずイオ●に向かって」
「あぁ…」
「俺は映画見たりとかテキトーに時間潰すから二人で出かけておいでよ」
「分かった。早めに…」
「迎えに来るのは遅くなってもいいよ。あ、でも、せめて19時迄には来てね」

悠里が助手席から俺を不安そうに見つめる。

「でも…ゆーま…」
「大丈夫。バレないから」
「悠真、ありがとな」
「いえいえ。健兄ちゃん今度何かおごってね!」
「任せろ!」

しばらくして到着し、俺は車から降りる。
「楽しんで」と伝えると二人共、黙ってうなずいた。
車を見送ってポケットから携帯を取り出した。


ーーーーーーー


悠真に協力してもらって3日振りに健と会えた。
運転している手・腕・横顔・体…
早く触れたい、触れて欲しいと思った。

「…悠里?」
「えぇっ?」
「いや…大丈夫?」
「だっ、大丈夫!」

私は焦って手を振って前を向く。

「…どこ行きたい?」
「うーん…」
「悠里が良いなら…二人っきりになりたいんだけど…」
「っ……」
「どう、かな?」

健の耳がほんのり赤くなっていた。

「…うん。私も二人になりたい…」
「っ……!」

何も言わない健の方へ目を向けると、また手で顔を隠していた。

「たけちゃん…?」
「…分かった。ホテル行こう」

次は私が手で顔を隠す番だ。
恥ずかしいから窓に目を向けて景色ばかりを追う。
するとお城みたいな外観の建物が見えてきた。

「あそこに入ってみよう」

健がギリギリ聞こえる声を出した。
こんなとこに入るのは初めてでドキドキする。
のれんみたいなシートがかかった入口から駐車スペースに入り、車から降りる。

健が黙っているので私も黙ったまま。
部屋の写真が並ぶパネルの前に立ってこんな風に部屋を選ぶんだ…と感心していると、健が一つのボタンを押した。
手を引かれてエレベーターに乗り込む。
健の顔が見れずに、ただうつむいていた。
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