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キセイジジツ
第5章 疑惑
一つはゾンビが出てくるアクションもの。
もう一つは宇宙人が出てくるSFもの。
どちらもシリーズものの最新作だ。
ーーーうわぁ…迷う。すげー迷う。どっちもぜってぇアタリだろーし…何気に見たかったやつだし…
変なところで優柔不断な俺は腕を組んで考え込む。
学生割引を利用すれば出費は押さえられるが肝心の生徒手帳など持ってるはずがない。
携帯に入ってる鑑賞割引クーポンを提示しても一本千円ちょいの金額だ。
確か財布には五千円は入ってるが高校生の俺からすれば千円はなかなかデカい出費なのだ。
ーーーいや、待てよ。あとで元兄ちゃん達に小遣い貰えるはずだし…特に健兄ちゃんからは期待出来るよなぁ。時間はたっぷりあるし…むしろ両方見れちゃうパターンじゃね?
都合よく解釈してチケットを購入しようと列の最後尾に並ぶと、背中の方から視線を感じた。
こういう時は振り向かないのが好手だ。
経験を考慮しながらさりげなく携帯を取り出して触っていると遠慮のない声が耳に届いた。
「ねぇ、キミ~」
気付かない振りをして携帯を触り続ける。
「ね~携帯触ってるキミ!」
やっぱり俺なのかとため息を吐いて振り返る。
「はい?」
訝しげに振り返ると女性が二人。
年の頃は20歳前後だろうか。
濃い化粧に露出の多い服装で胸の谷間を覗かせている。
「キミ、一人なの?」
「映画何見るの?」
二人に勢いよく尋ねられて面食らった俺は言葉がなかなか出てこない。
「彼女はいるの?」
「えっと………」
「いっしょにお茶しない?」
「あー……」
初対面でそこまで突っ込んでくるのか…と困惑しながら視線を泳がすと女性達の後ろにいる見覚えのある男性と目が合った。
「あれ?健んとこの……」
俺はチャンスだとばかりにその男性を指差し、女性達に視線を戻した。
「あの人…俺の〈彼氏〉です!」
「はっ?」
「えっ?」
口をあんぐりと開けて固まる女性達。
「なので、すみま……」
「いやっ大丈夫!」
「ははは……」
俺が笑顔で断りを入れようとすると女性達は苦笑いしながらそそくさと立ち去って行った。
ーーー冗談のつもりだったのに本気にされたか。
まぁ…助かったけど。
女性達の後ろ姿を最後まで見送って視線を戻す。
この場に残るのは、突然〈彼氏〉発言をされた被害者のお兄さん。名前は知らない。