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キセイジジツ
第5章 疑惑
「あの、勝手に彼氏とか言ってすみません!!」
深く頭を下げて詫びると、お兄さんはハッとして俺の顔をまじまじと見つめてきた。
「お、おう。別にいいよ……驚いたけど」
「驚きますよね、ホントすみません。でも、どう断ろうか迷ってたので助かりました」
「あぁ、さっきの子達?」
「そうです」
お兄さんは女性達の顔などを思い出したのか少しニヤリとした。
「すげぇギャルだったよな。タイプじゃなかった?」
「タイプうんぬんより、特定の子以外の女性には興味ないんで…」
「へぇーモテそうなのに。でも俺もそんな感じ」
「興味ない子からモテても…って感じで。お兄さんこそモテそうっすね」
「そう?何かキミとは話が合いそう。あ、映画は何見るん?」
列が進んだのを確認して俺に視線を戻すと、自然と話を変えられた。
「ゾンビのやつか宇宙人のやつで迷って、いっそのこと両方見ちゃおーかなと思ってます」
「おっ宇宙人のやつ?俺それ見ようと思っとるんよ。キミも宇宙人の方にしなよ。いっしょに見よー」
「えっ嬉しいです!」
「嬉しいんだ?あ、ちなみにゾンビの方は俺この前見たんやけど、すげーおすすめ!」
「もう見たんすか!やっぱ、アタリなんすね~」
「うん、間違いないよ」
そこで一度列を確認すると次は俺の番だった。
「席は隣にする?」
「あ、ぜひ!」
「お次のお客様ーこちらへどうぞー」
窓口のお姉さんが俺達を呼んだ。
映画名を伝えて座席の位置を指定する。
チケットを受け取り、売店へ向かう。
「飲みもん何にする?」
「あ、コーラにします」
「おっけ。そこで待ってて」
パパッと買ってきてくれた。
「はい、コーラ」
「あ、お金…」
「別にいーよ。年上が奢るもんでしょ」
「でも…」
「ま、健に請求しとくから」
ニヤリとして先にスクリーンへ入って行く。
遅れて入るとお兄さんはすでに席を見つけていた。
「ここだよー」
「この位置で正解っすね」
「そうやろ~」
二人で何度もうなずく。
ふとお兄さんが「ん?」という表情をした。
「そういえば…キミの名前聞いてなかったね」
「あ、名前言うの忘れてましたね。俺は佐田悠真って言います」
「ゆうまくんね。俺は長田恭介。知ってる通り健の友達ね。今更やけどよろしく」
ずっとニヤリ顔だった恭介さんが、優しさを顔に滲ませて静かに笑った。