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キセイジジツ
第5章 疑惑
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「名前も顔も、ですか…」
恭介さんがあまりにも切ない顔をするので俺はそれ以上言葉が出なかった。
そんな俺に気付いてか自嘲的に笑うと、口を開いた。
「その次の年もその次も、その子に会えるかもって期待してこっち遊びに来たりしたんやけど、どうしてもその子は見つからなくてさ。中学上がると同時にこっち越して来てからも探してたけど中3の夏で諦めてしまった」
当時の事を思い出しているのだろう。
恭介さんの口元が緩んでいる。
「会った時に下の名前は聞いたはずなんだけど…忘れるとかバカなガキでしょ。後悔しても遅いんだけどさ、同じクラスの子にも興味なくて虫ばっか追いかけてたガキがすげー年下の幼い女の子に惹かれるとか、純粋でしょ?」
少し恥ずかしくなったのか手で顔を隠している。
「その子の身体的な特徴とか覚えてないんですか?」
「うーん……そうだなぁ……髪は肩よりも長くて……可愛い子って事は覚えてるけど、細かい顔の造りまでは覚えてないなぁ……」
つぶやきながら恭介さんは自然と俺を見る。
「あれ。悠真くん、下唇にホクロがあるんだね」
「そうなんです。友達に『唇にホクロがあるやつってエロいらしーぜ』とかよく言われて困ってます」
「へぇー唇にホクロあるとエロいんだ?」
恭介さんは「はははっ」と少し笑うと、ふと真面目な顔をした。
「どうしました?」
「いや……たぶんなんだけど……あの子の唇にもホクロがあった気がして……」
「ホクロですか…」
「あっもういいんだ。昔の事だし。うろ覚えな分、逆に忘れられないだけなんだ」
恭介はそう言うと静かに笑った。
でも俺は、恭介さんはまだその子の事が諦めきれてないように思えた。
自分が考える以上に、その子の事をずっと想って生きてきたのだろう。
俺にそう感じさせるほどに恭介の顔は優しかった。
「あ。そろそろ俺帰らないと…」
携帯で時間を確認した恭介さんが残念そうに口を開く。
「そうなんですね。映画からご飯まで付き合ってもらっちゃって…ありがとうございました」
「全然良いんだよ。楽しかったし。てか、悠真くん連絡先交換しよーよ」
「あ、ぜひ!」
お互いの番号とラインを交換した。
「また遊ぼーね。じゃ!」
「はい。気を付けて」
俺は恭介さんの姿が見えなくなるまで、その方向を見つめていた。
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