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第9章 彼の家族

リビングのドアが開いて、一ノ瀬さんが戻って来た。

「ごめん、知花ちゃん。追い返せなかった…」

ため息をつきながら一ノ瀬さんが謝ってくれたけれど、ほとんど聞こえてたから、あれは不可抗力だ。

「おっ邪魔っしまーす。あ、どうも。祐の兄でーす。」

リビングに入って来たお兄さんとばっちり目が合って、ニコニコしながら挨拶をしてくれた。

「あっ、初めまして。相原知花と申します。」

「知花ちゃんって言うんだ。かわいいねっ。いくつ？祐と同じ会社？どこで知り合ったの？っていうか、彼女、だよね？」

しっ、質問攻め…！！
突然の事過ぎて、頭がついていかないし、心拍数が急上昇中だ。
男の人だから怖いのか、一ノ瀬さんの家族だから緊張しているのか、もうよく分からない。

「いきなりやめろっ。っていうか、俺、明日帰るって言っただろ？」

少し不機嫌な様子の一ノ瀬さん。
お兄さんと言い合いをしているとリビングに女の子が入って来て、一ノ瀬さんに抱きついた。

「たぁーくーんっ！」

女の子に続いて、きれいな女の人が小さな赤ちゃんを抱っこひもで抱きながら入って来た。

「祐くん、突然ごめんね？柚が迎えに行くって聞かなくて。」

話し方からして、この方はお兄さんの奥さんかな？
私と目が合うと会釈をしてくれた。

「初めまして。亘の妻の翠（みどり）です。突然お邪魔して、騒がしくしてすみません。」

ニッコリ笑った顔はとても優しそうできれいで見とれてしまった。
私はお兄さんにしたように同じ挨拶をして、頭を下げた。
それから、柚ちゃんと、抱っこされていた赤ちゃんが翔（かける）くんだと紹介された。