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第10章 乗り越えたいモノ

「一ノ瀬さん、帰る支度出来ましたかー？」

「…えっ？」

「はーい！知花、帰る支度終わりましたぁ！」

えっ、ちょっ…待って！！
コートを着せられて、マフラーをぐるぐる巻きにされて、バッグを押し付けられた。

「み…れっぃ、ちょっ…とっ！こと…りぃ！！」

そして、そのまま一ノ瀬さんの前に押し出された。

「あっはっはっ！相変わらず三人揃うと面白いね。一ノ瀬、早く準備しな。俺は十分楽しかったから。」

「じゃ、私たちはまだお酒あるから飲み直します？」

「おつまみはー？…タコ？」

「あはは、タコはさすがに…」

「買ってきます？作りましょうか？」

みんな、私たちを置いてきぼりにして話し始めた。
存在を完全に無視されている。

「はぁ…帰ろうか？」

「え、はい…」

ため息をつきながら一ノ瀬さんが身支度をして、滝本さんに声を掛ける。

「じゃあな。俺たち帰るから、また月曜な。」

「あの、お邪魔しました…」

「あー、はいはい。またね。」

滝本さんが私たちをチラッと見ると、ものすごく適当に返事をした。

「「素敵なバレンタインデーをー！！！」」

はぁ…もうやだ、あの二人…
滝本さんのマンションを出て、駅に向かう。
電車に乗っている時も、駅からマンションまで歩いている時も、みんなの悪ノリについての話ばかりだった。
みんな素敵でいい人ばかりなんだけどな…
個別にはね。
集まってタッグを組まれるとね…