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第3章 私の過去

「知花が今日の様に取り乱す事はよくある事と、いいましたが…知花は職場等の顔見知りの男性であれば、なんとか冷静を保てますが、全く面識のない男性は恐怖の対象です。」

「恐怖…。今までの通勤中は…？」

「辛うじて大丈夫でした。あくまで無害な男性であったはずです。」

「大丈夫だった、ということは…」

「はい。あの日、痴漢に遭うまでは、です。」

テーブルの上でコーヒーの入ったグラスを握る美怜ちゃんの手に力が入った。

「今は電車は知花にとっては…拷問に近いかもしれません。」

そんな…毎日が拷問だなんて…

「仕事にも影響があるといけないので、なんとか電車だけは…前の様に…」

美怜ちゃんの声が震えている。
泣き出しそうだからというよりは、怒りを抑えていてと言う方が正しい。
俺は何も言葉を返せずにいて、再び重苦しい沈黙が流れた。

シャワーの音が止まり、ドアが開く音がして、二人してそちらを振り返った。
美怜ちゃんが席を立って、風呂場へ入って行った。
二人で何か話していたのか、数分後美怜ちゃんが戻ってきた。

「一ノ瀬さん、タクシーを呼びますので、また下で少し話せますか？」

美怜ちゃんの言葉に了承して、タクシーを呼んでもらった。

「知花ー？ちゃんと髪、乾かしてねー！先寝てていいからねー！」

美怜ちゃんは風呂場に向かってそう言うと、『行きましょう』と部屋から出た。
美怜ちゃんの後を追って、俺も外へ出た。