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戦国ラブドール
第10章 市松の暴走
「市松、この脇差し、借りても良いかい?」
泣き止んだ後、大海は市松に訊ねる。だが答えを聞く前にそれを抜き取ると、立ち上がった。
そして自身の赤毛を掴むと、一気に髪を切り落とす。肩にも掛からないくらい短くなった髪に、大海は満足し頷いた。
「小夜を置いて死ねないから、これで切腹の代わり。能登の月橋大海は死んだ。これからは、ここであたしに出来る事を探していくよ」
女にとって、髪は首にも等しい価値のある部位である。それをばっさりと切るなど、本来は仏門に入りでもしない限り、してはならない事である。だが、大海の表情は夕凪のようで、市松の目を奪った。
「……綺麗だな、お前」
気が付けば、市松は大海に惹かれ立ち上がっていた。衝動のままに、頬を押さえ口付ける。
「んっ、く……!」
突然の口付けに、大海は驚いて脇差しからも握っていた髪からも手を離してしまう。脇差しは足元に落ちて転がり、髪は風に吹かれて散っていった。
「待っ……やめ、市松っ!」
「嫌だ。俺は、お前を抱きたい」
話を聞かない市松からは、酒の匂いがする。大海はすっかり忘れていたのだ。市松の「気のいい奴」という評価の前には、常に「酒を飲まなければ」と付いていた事に。