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戦国ラブドール
第12章 月の掛け橋
 
 行長が慌てふためいても、虎之助は両腕を前に組み、頑として譲らない。無言の圧力に、行長は顔を歪めた。

「彼女がゆっくり出来る、せっかくの機会なのに……ああもう、うちの屋敷を見ても文句は言わないでくださいよ! 悪態をついたら、その場で叩き出しますからね!」

「承知した」

「しなくて結構ですよ、わずらわしい。出発は明日ですから、準備してくださいよ」

 虎之助は、多少の悪口にも怒らず頷く。決意の固さに行長はもう一度溜め息をつくと、疲れた顔をした。

 大海の護衛に、紅天狗の捜査。与えられた役割は違えど、皆目的を胸に動き出す。だがただ一人、市松だけは、何も語らず思いを胸に秘めていた。

(虎之助の奴、相当惚れ込んでるんだな。それに比べて、俺は……)

 悩んでいる間も、時は無情に過ぎていく。紅天狗もまた、見えないどこかで今も動いているのだ。答えが出ないままでも、歩いていかなければならない。

 紅天狗は、そんな心の隙間を逃さない。既に長浜を崩すために大掛かりな策が仕掛けられているとは、まだ誰も気付いていなかった。
 
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