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戦国ラブドール
第26章 かわいそうなこどものおはなし
「しかし、中国攻めは困難を極めるでしょう。あそこには、毛利という大敵がいます。もしかしたら、これが今生の別れになるかもしれません」
命を奪うのは、寿命や病だけではない。大海の背筋に寒いものが走ったその時、半兵衛は大海の唇を奪った。
「……何も言わず、送り出してくれますか? 私に、最後の勇気をください。前へ進むための、未来を歩むための」
交わす熱は名残惜しく感じない内にと、すぐに離されてしまう。追い掛けてもう一度交わしたくなるが、それは半兵衛の望むところではない。大海はしっかりと前を向き、涙の滲んだ瞳を半兵衛に向けた。
「ご武運を、祈ります」
「ありがとうございます――さようなら、大海」
半兵衛は穏やかな笑みのまま、大海に背を向ける。その背中に飛び込んでしまえば、まだ間に合うかもしれない。大海の中に、そんな焦りが生まれてしまう。
だが、大海は拳を握り締め、唇を噛み締めて遠ざかる背中を見送る。たとえ討ち死にしたとしても、戦場での活躍を望み、祈る。それが武士に仕える女の務めである。大海は半兵衛の姿が見えなくなるその時まで、泣き崩れるのを耐えて見送った。