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禁断の果実に口づけを
第10章 普通に憧れる洋子
デパートを出ると、両手には沢山のショップの袋を持って歩いていた。
『これが世に言う、大人買いというやつかしら?』
そう思いながらも、家路に向う洋子には笑みが溢れていた。
まるで忘れかけていたものまで取り戻し、重みとなって両手で支えている様な気持ちにすらなれたのだから。
一人で住むには贅沢であり、広いと感じるマンションに帰る。
伸介が初めてこの部屋に来た時、『いいところに住んでるな』と言われたけど、この部屋で自分と向き合う時間は長く感じていた。
家具も贅沢なものばかり揃えてあるのは、遠い日のあの日……
期待と夢でいっぱいだった若き日の自分が、嫁ぐ時に妥協をしないもの揃えたからだ。
食器棚や食器、調理器具、ソファ、ダイニングセットなどは、可愛い妻になる為のものだった。
可愛い子供も欲しかった。
だけど、自分の体にはその機能が備わってなかった。
辛く苦しい不妊治療の甲斐もなく、愛する人に別れを告げた。
洋子の元夫も子供を強く望んでいた。
『ごめん…
洋子…
俺、子供は諦めたくない』
そう言われて去っていった。
泣いても喚いても、どうにもならない事が世の中にはあるのだと、心に刻んだ。
幸せだった頃もあった。
でも、幸せのない場所に置かれた豪華な家具は、洋子の心をより一層哀しみの淵へと追いやっていった。