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禁断の果実に口づけを
第16章 砂の城
【バタン】とドアが閉まる音が聞こえると、パジャマの上にガウンを羽織った寝ぼけ眼の優美子がリビングにやって来た。
「あら、おはよ」
健にそう声を掛けると、スタスタと目の前を歩いて冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、コップに注いで飲んだ。
「おはよう。優美子」
「はい。あなたもいってらっしゃいね」
コップをシンクに置き、また自分の部屋に戻ろうとする優美子。
そんな優美子に声を掛けた。
「優美子」
「うっ?何?」
「明日からハワイか」
「えぇ。パパとママに今のうちに親孝行しとくわ。
娘や孫と行ける旅行を楽しみにしてるの。
兄さん夫婦とは馬が合わないみたいだから、息抜きさせてあげないとね」
「そうか。
なら、ハワイから帰ってきたら、ちゃんと話をしょう」
「えっ?何を?」
「惚けなくていいさ。
上手く隠してきたつもりでも、そろそろ俺達も限界だろ?
もうこれ以上無理して取り繕う必要もないだろ」
「ちょっ、ちょっと、あなた何を言ってるの!」
優美子がムキになり、健に駆け寄る。
「優美子。
これ以上、俺と一緒に居る意味はあるのか?
今まで優美子を傷つけていた事、本当に済まないと思ってる。
もう、お互いに取り繕ったり、嘘をつくのは辞めにしないか?
優美子にそうさせてしまった俺が一番悪い。
ごめん、優美子……」
言わずにいようと思った事が口から自然と出てしまい、もう止める事が出来なくなっていた健。
冷めた夫婦の空気、偽りの姿を目にする事で、もはや自分の中でも限界を迎えていた。
意味のない事に正々堂々と終わりを告げ、謝罪すべき事はきちんとし、新しい年を迎える時には踏ん切りをつける決意も固まっていた。