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禁断の果実に口づけを
第18章 女の本性

 優美子は営業所を出て、タクシーを拾える通りまで歩いていた。
バッグの中の携帯が鳴り、手に取る。
着信主は細川理一。

 「もしもし」

 通話ボタンを急いで押していた。
今、一番聞きたい声だったからだ。

 「優美子さんの姿が見えますよ。
道路を挾んだ向かいのコンビニを見て下さい」

 「えっ!?」

 携帯電話を耳に当てたまま、その方向に視線を送る。
同じ様に携帯を耳に当て、優美子を見て手を振る理一。

 「信号が変わったら、会えますよね?」

 「……理一さん……」

 「仕事を抜けてきました。
急な食あたりなんて苦しい嘘までついたんですよ。
それくらい心配だった」

 さっきまで気丈に振舞っていた優美子に涙が溢れ出す。
今朝、夫の健から別れを告げられ、気が動転するくらいのショックと怒りが込み上げた。
悔しい気持ちが抑え切れなかった。
心がクシャっと潰れそうだった。
自分ではどうしていいのか分からず、パニックになりながらも、最後の砦である理一にしがみついた。

 信号が変わり、理一の元に駆けつける優美子。
下唇を噛み締め、泣き顔のまま理一の前に歩み寄った。

 「温かいコーヒーを買いました。
だいぶ寒くなりましたね。
車に入りましょう」

 優美子にそう言うと、そっと手を取り、車のドアを開けて助手席に座らせた。
運転席に理一も座り、「最後まで、僕は貴女の味方ですから」
そう一言言うと車を走らせる。

 緊張の糸がほぐれ、安心したかの様に優美子は声を上げて泣いていた。



 
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