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禁断の果実に口づけを
第23章 本物のQUEEN
「健さん……」
棺の中の健に話し掛ける。
エンバーミングというものがどんなものなのか、いまいち分からないが、健の遺体は眠っている様に見えるくらい綺麗にされていた。
びっくりしたのはスーツ姿で眠っているのだ。
朋子がクリスマスプレゼントに贈ったネクタイを結んで……
「ハッ……ハッ……」
嗚咽が口元から漏れ、涙がポロポロと頬を伝う。
健の遺体に触れる事は赦されない思った。
優美子をこれ以上裏切ってはいけないと心に誓う。
自分がもし優美子の立場だったら、夫の愛人が弔う事を赦しただろうか?
いや、決して赦したりしない。
愛人と妻の境を見せつけ、近寄らせたりしないだろう。
そう思えば、自分はとても罪深い事をしてしまったのだと心から悔いた。
『健さん……生きているといろんな気づきがありますね。
こうなるまで気づけない自分が愚かでした。
でも、あなたに会えてよかった』
手を合わせ、心で健に話し掛け冥福を祈った。
蝋燭の炎が大きく揺らめき、棺の中の健が笑った様に見えた。
フワッと優しく肩を抱きしめられている様な不思議な感覚に包まれた。
『俺の為に泣くな…。
俺は人一倍働き、人一倍遊んだし、人生を楽しんで生きた。
人間いつかは死ぬんだ。
一足早いだけ。
だから、まだ朋子は楽しんでこい』
そんな風に言われてる様な気がした。
『ちゃんと生きなきゃね。
真っ直ぐ歩かなきゃね。
サヨナラだね。バイバイ健さん』
涙を拭き、健と最期の別れの言葉を交わし、歩き出す。