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禁断の果実に口づけを
第24章 こゝろに凪を
実家からの帰り道、車を運転しながら故郷の海を眺めた。
都心から少し離れた田舎町の海。
時折、メディアで観光スポットとして紹介されたりもする。
夏は海水浴客で賑わいを見せ、活気溢れた風景を見せるのに、冬の海は物静かで穏やかだ。
深みのある蒼の世界で穏やかな波を生み、飛沫となって打ち寄せる。
岩を叩きつける様に打ち寄せる波の姿は、どうにもならない恋に縋る女の姿にも似て見えた。
跳ね返されて泡のように消えてしまう。
びくともしない岩が伸介に見えた。
あの男の前では洋子は脆い女となり、心を揺さぶられてしまう。
『いつか泡の様に消えてしまうのであれば、心に凪を作りその日を待とう…』と心で呟いた。
途中、道の駅に寄り、佃煮やレトルトカレーなど、この土地の名産で作られた土産を買った。
年末の映画デートの際、『俺が誘ったんだし、車出してくれてっからいいよ』と映画代や食事代は全て伸介が支払ってくれていた。
そのお礼。
自炊などしないであろう伸介に、ご飯を炊けば手軽に食べられて負担にならないものを選んだ。
本音は会いたい気持ちの口実を作ったお土産。
伸介の事を考えると洋子の心は自然に凪となる。